もうひとつのX'smap






















「……で、何で帰ってきたの?」

「それはもちろん、やっぱりこの街が好きだからだよ」



そう言って警官姿の男の前にコトリと音をたてて置かれたのはその店特製のカレー。

いつもながらコポリコポリとあぶくをたてている、お世辞にもカレーとは言いがたい物体をみて思わず男は大袈裟にため息をついた。



「マスターさぁ、違う街に行って少し料理研究してから帰ってくれば良かったんじゃねぇの?」

「ひどい事言うねぇジュンサ。ま、やっと僕の名前覚えてくれたから許すけどね」

「だってまんまじゃん」

「ジュンサも同じでしょ、それは」

「まぁなー…」



ジュンサは決してスプーンを口に運ぶ事はせず、代わりにくるくるとスプーンでカレーを混ぜながら同意する。

そんな素直な態度にマスターは柔らかな笑顔を浮かべている。



「ジュンサ、パトロールはいいの?」

「………雪降ってるから自転車使えねぇじゃん」

「変わってないね、ジュンサは。そんなんでよく警官になれたものだよ」

「その言葉、お前にも返してやるよ。つーかさ、なんで突然消えたの?」



一年前のクリスマスの次の日、突然店諸共姿を消した目の前の男にジュンサはスプーンを回すのをやめて問いかけた。

去年のあの日は変な泥棒二人組が出てきて屋敷に侵入したり、目の前の男が実はサンタだって分かったりと大変な一日であったのは覚えている。

それにかこつけて、気がつけば「アロイ」の店の前には「閉店しました」の紙が一枚、寂しげに揺れていたのだった。



「…お前達が居なくなった後、けっこう交番に店の事を訪ねてくる奴等がいたんだけど」

「そっか。迷惑かけたかな。お詫びに今日のそのカレーは僕からのサービスにしてあげるよ」

「いや、もともと金払う気はなかったけどな」

「なに、警官が無銭飲食?」

「だいたい、今日は俺カレー頼んでないし」



その前に答えろよ、とでも言いた気なジュンサの視線に気がついてマスターはまたもや微笑んだ。


「本当はね、僕達サンタは一般の人に正体を知られちゃいけないんだよね。掟で決まってるんだけど」

「でもお前、去年はモロバレだったじゃんか」

「だから引っ越したじゃない」


そう言いながらマスターは今までカレー鍋をかき混ぜていた手を止め、食器棚から皿を3枚取り出した。


「でもね、僕はやっぱりこの街が好きだから。親父に頼んで戻ってきたんだ」


そう言って笑うマスターを、ジュンサは首をかしげながら見つめていた。



「なーんもねぇ街なのにねぇー。だいたいココには交番なんていらねぇんだよな」

「何言ってるの。ジュンサもこの街が気に入ってるくせに。だからずっとココにいるんでしょう?」

「ばぁか。俺がこの街に居座ってるんじゃなくて、この街が、俺を欲してるんだよ。……やべー、またいい事言っちゃった」

「………本当に変わってないね」



呆れるマスターを見てジュンサはそんなのお構いなしに自分の世界を堪能しているようだった。

マスターは先ほど取り出した3枚の皿をジュンサの座っている席の隣に並べながら思い出したようにジュンサに尋ねた。



「そういえばさ、去年の子供達はどうしたの、あれから?」

「あぁ……なんか一人のちっせぇ女の子…なんだっけ、ハナ?あいつはよく交番に来て本読んでるよ…。

 あいつによれば一週間に一回はお兄ちゃん達に会える日があるんだと」



それを聞いたマスターは今まで以上に嬉しそうな笑顔を覗かせた。

まるで自分のことのように喜ぶ姿にジュンサも少しだけ微笑んだ。



「それは良かった。あ、あの二人は?」

「あ?」

「ホラ、あのー…」



その言葉が続かないうちにチリリンという、店に来客が来た事を告げる鐘の音が鳴った。

その足音は軽やかで、いかにもいい靴を履いてます!!と言った感じである。



「アロイという店はここかい?」



店に入ってきたその男は、自分のくせ毛についた柔らかそうな雪を嫌そうにパフパフと払い落としながら言った。

眼鏡をかけ、高そうなコートを着ているその男にマスターは見覚えがあった。



「はい、そーですが………あっ。貴方は……」

「なんだよ、ジュニアじゃんか」


当然のように親しげに目の前の男に話しかけるジュンサに驚いてマスターは思わず目を見開いた。


「何、ジュンサこの人と知り合いなの?」

「知り合いっていうか……この街でこいつを知らない奴はあんまりいねぇよ?なんせセント・デパートの若社長様だからな」



可笑しそうにニィッと笑うジュンサの言葉にジュニアは困ったように微笑んだ。

それは以前マスターが出会ったときのジュニアには想像も出来ないような優しい微笑だったので、マスターはさらに小さな驚きを覚える。



「お前こそ、ジュニアと知り合い?」

「知り合いっていうか……去年のクリスマスにあって少し相談されたんだけど…」

「あぁ、そんな事もあったね。去年はありがとう。とても助かった」


そう言って笑うジュニアを見て、きっと去年の相談事は綺麗に解決したんだろうと確信してマスターは素直にホッとした。


「で、ジュニア。お前どうしたのこんな所に来て。ここにはお前が食べるようなもんはないぜー」


さりげなく失礼な事を言うジュンサを少しだけ睨みながら、マスターもその質問の答えを待った。

ジュニアは困ったようにぽりぽりと頬を掻きながら自分の後ろをちらりと見た。



「いやね?この人たちにアロイまでの行き方を聞かれたものだから連れてきたんだけど…」

「は、誰………」



ジュンサがそう言うとすぐに、バタバタと慌しい音が小さい店中に響き渡った。

そこに現れたのはなんだか見覚えのある男二人組で。



「ジュンサー!マスター!」

「あ、盗人二人組」


そう、その二人組とは去年、マスターと同様、街で大暴れをしていった泥棒兄弟だったのだ。


「盗人って言わないでよぉーっ」

「…えーーと、名前なんだっけ。オジンとオトン、だっけ?」

「おしい!!アジーとオットーでしたぁ!ちなみに僕がオットー。弟だからオットー♪」

「全然惜しくないだろ。つか歌いだすな!」



突然の出来事に暫し呆然と二人の兄弟の漫才を見つめていたジュンサ、マスター、ジュニアだったが、さすがにしばらくすると飽きてきたのか

いらいらした様子でジュンサが口を開いた。



「つーか、お前ら俺のことなめてんだろ」

「えーーっ舐めてないけど!!」

「定番なギャグ飛ばすな!!だいたいお前ら犯罪者だろ!?逮捕するぞ!!」

「えぇっ!!アジーどうしようやっぱりこの人本物の警官だったみたい。らしくないから分かんなかったねー」

「…てめぇら。えっとー?不法侵入、窃盗未遂に誘拐未遂、…」

「え、え、え、ちょっと待ってジュンサ!!」

「あとー、恋泥棒?」

「はぁ?」

「なんか訛りのすげぇ鈴って女から訴えが出てるけど。オットーお前にだ」

「んぁー…なんかわかんないけどそんな人覚えてないやぁ」



オットーは甘そうなキャンディを口に含みながら盗人らしからぬ幼い笑顔で微笑んだ。

そんな様子が可笑しくて、マスターは3人を席に座るように促しながら言う。



「まぁ、アジーもオットーも正解だね。ジュンサは君たちを逮捕できないよ」

「何でそんな事わかる」



ジュンサは不機嫌そうにアジーとオットーを見つめていた瞳をクルリとマスターに向けた。

その瞳はなんだか図星をつかれて気まずい、とでも言いた気だった。



「だって、ジュンサ。この二人が本当は悪い奴らじゃないって分かってんでしょ?それにー、侵入した家からは被害届出てないんでしょ」

「………まぁな。まぁ、こいつらを野放しにしてたって大した事できやしねぇから、今回は見逃してやるか」

「ジュンサさりげなくひでー☆」

「でもジュンサになら逮捕されてもいいかもなー」

「…………やっぱりダメだ。こいつ変態罪で逮捕しようか…」

「ちょっ…そんな罪ないだろ!?」



そんな会話を繰り広げる彼らの前にマスターは、新たにアジー、オットー、ジュニアの分のカレーをテーブルの上に静かに置いた。

そんな様子を見てジュンサは一回首をひねるとカウンターに乗り出してマスターに尋ねた。



「なぁ、そーいえばお前こいつらが来る前からカレーの準備してたよな。なんでこいつらが来るって分かった?」


そんな問いかけにマスターは相変わらず涼しい顔をして答えた。


「うーん、なんだろ。サンタの勘、かな?」

「…なんだよソレ…」


サンタ、という言葉に反応したのか、ジュニアがポンッと手を叩いた。


「あぁ!そうか、そういえば今日はクリスマスなのか」

「あーっそっか。今気がついた」

「ジュニア、お前、デパートは今が一番忙しいときじゃないのか?」

「うん、まぁね。でも僕が居なくても大丈夫だから。記念日は息子と出来るだけ過ごすって決めてるし」

「ふーん、お前変わったのな。あ、クリスマスって事はマスター、お前今日の夜仕事か?」



皆今日がクリスマスっていう事に気がつくの遅いなぁ、と苦笑しつつマスターがうん、と頷く。

それと同時に何かに気がついたようにぱぁっと顔を輝かせた。



「皆、今日僕のソリに乗って一緒に仕事しない?あれから修行してソリの運転上手くなったんだから」


そんなマスターの言葉に驚いたのはもちろん他4人。代表してジュンサが口を開いた。


「お前っ…サンタが部外者乗っけてプレゼント配るなんて聞いたことねぇぞ!?」

「まぁ、いいじゃない。あそこから見える景色は最高だよ。それ、皆に見せてあげたいし。僕からのクリスマスプレゼントだよ」


そう言いながらマスターは他の4人がしょうがないな、という感じで表情が柔らかくなっていくのをちゃんと確認していた。


「じゃあ決まりね」




去年のあの日、いつもならもらえないはずのクリスマスプレゼントを、僕は貰ったんだ。

4人の友人、そして、還る場所を。

きっとこの友情……って言ったらジュンサは怒ると思うけど、これはこれからもずっと続くよ。

これもサンタの勘…かな。

とりあえず今日は、僕も含めて、世界中の皆が幸せになってくれればいい。

改めてサンタから。

Merry christmas!!





あとがき

4時間遅れのクリスマス小説完成です。
最近の私には珍しく、書くのが楽しくて一気に書き上げたお話です。
もともと私はクリスマパロを一度でいいから書いてみたかったんですね。
で、クリスマスまでに完結するクリスマパロの長編ネタも考えてたんですが
どうしても結末がまとまらず断念っ(苦笑)
そんなわけでこの短編が出来上がったわけです。
いつにも増して突っ込みどころ満載な出来栄え!!
・ジュンサはアジーとオットーに会ってたっけ?
・ジュニアはマスターがサンタだって事知らないんじゃ……
・まず根本的にマスターキャラ違くない?
・ジュニアとアジーほとんど喋ってない
まぁ、そんな事はいつもの通りスルーでお願いしますね♪(!)
まさか「鈴」ネタも入れるとは自分でも思ってませんでしたが…
隠れた主役ですよね?あの人は。というか漢字はこれでいいのだろうか。
余談ですが、クリスマの中居君のジュンサコスプレ(違)
あれは犯罪級の萌えですよね…!ジュンサのキャラも限りなく
私の萌えにクリーンヒット…!(聞いてない)
というか、吾郎ちゃんの役が「ジュニア」っていうの知りませんでした。
普通に「社長」だとばかり…!分からなくて書き始める前に雑誌の切り抜きの
ファイルを調べて驚きましたよ。ちなみにつよぽんも「マスター」だとは知らなかった…
反省ですね。

(07.12.26)