SWEET DAY?〜後編〜




















やばい、やばい!どうしよう…。

朝日が出始め、辺りが暗くなってきたというのにまだ中居は一人で途方に暮れていた。

一ヶ月前の、あの大事な約束を忘れていたと思うと、自分に腹がたって仕方がなかった。

正確に言うと、あいつらとそんな約束をしたわけではない。

ただ、バレンタインデーに心のこもったお菓子をプレゼントしてくれたメンバーに、

ホワイトデーにはすばらしいお返しをしようと、そう心に決めていたのだ。

なのに。

その事を今の今まで忘れていたなんて…。

いくらスケジュールがきつかったとはいえ…最悪だ。

しかも、悲しいことに今日はスマスマの収録日。

メンバーとは嫌でも顔をあわせなければならない。

うあー…どうしよう…。

その時。

トゥルルルルルル♪

いきなり鳴った携帯電話の着信音で、中居は現実に引き戻される。

慌てて開いたその携帯の画面にはマネージャーの名前が。

「…もしもし」

「あれっ起きてたんですか?めずらしい」

「うっせーよ」

「まぁそれはさておき。そろそろ時間なんで降りてきてください。今下にいるんで」

そんなマネージャーの言葉に、中居は自分の耳を疑った。

ふと外を見ると、いつのまにか中居が気がつかないうちに夜はすっかり明けきっていた。

中居の頭はフル回転で、今日のスケジュールを引っ張り出す。

そしてそれを思い出すや否や、中居は思いっきり舌打ちをした。

そうなのだ。

今日の中居は早くから仕事が一本入っている。

その仕事を終えたあと、スマスマのスタジオ入りということになっていたのだ。

空き時間が…ない。

呆然としていた中居を、携帯越しにマネージャーが催促する。

「中居さーん?もしもし?」

「あっ…ちょっ、待ってて。すぐ降りるから」

そう言うと中居は携帯の通話を切ると、大急ぎで身支度を始める。

マネージャーが迎えに来る直前まで寝ていることなんて、いままで普通にやってきたことなのに

今、自分がこんなにもあせって準備をしていることがおかしく思えて仕方がなかった。

それだけ自分が動揺してることの表れなんだろうけども。

適当に準備を済ませた中居は、足早にマネージャーの元へ駆けていった。

そして自分が今思いつく最後の手段を口にする。

「なぁなぁ…どっか店よれない?」

「な…なんですか、いきなり」

「あ、おはよう。で、よれない?店」

出来る限りかわいく言ってみたつもりなのだが、そんなもの長年付き添っているマネージャーには関係無い様だった。

「ダメですよ。もう時間ギリギリなんですから。それにこんな時間に開いてる店なんてコンビニくらいしかありませんよ?」

ピシャリとそう言われて、中居の最終手段はもろくも崩れ去ったのだった。

マネージャーに買ってきてもらう、という考えが一瞬中居の頭を掠めたがそれはすぐさま消去された。

あんなにメンバーが心を込めて作ってくれたのに、自分だけマネージャーに買ってきてもらったものを渡すなんて

中居の性格上許せないし、なによりメンバーに悪い。

そんなこんなで、もうお手上げ状態の中居の気持ちを知ってか知らずか、車はいつもと変わりなく走り始めたのだった――。



「中居さん、おはようございまーす」

早朝から始まった別の番組の収録を終えて、中居はスマスマの収録スタジオへと到着した。

なるべくメンバーと会わないようにして楽屋に入り、扉を閉め、頭を抱える。

「どーすりゃいいんだよ…着いちまったじゃんかよぉーっ…」

どうする…もうこれから買い物に行くことはできない…。

俺はあいつらみたいに料理だって全然出来ないし。

……こうなったら…。





「つよぽん!吾郎ちゃん!」

「慎吾、おはよー。今日は早いね。僕らも今来たんだよ。何かあったの?」

「何かあったのじゃないよーつよぽん。今日のこと考えたら楽しみでさっ」

「今日のこと?」

「ホワイトデーのことでしょ?」

「そう!吾郎ちゃん正解!」

「あーそっか。二人ともよく覚えてたねぇ」

「何…つよぽん忘れてたわけ?」

「いや、ごめんって」

そういうと剛は、はにかんだように笑う。

「でもさぁー、つよぽんも忘れてるくらいなんだから中居君は無理だよねぇ?」

「中居君、最近いつにも増して忙しそうだったしね。だいたい、もともとイベントごとに興味の無い人だし」

「別にお返し目当てでお菓子あげたわけじゃないけど…どうするんだろうね?」

「責任感強い人だからねぇ…」

そんな会話をしながら、下三人がそろって楽屋に入ると誰もいないと思っていたのに小さな人影がヒョコリと現れた。

「お…おぅ」

「な…中居君?おはよー…もう来てたんだ」

寸前まで話していた内容の本人がいきなり現れて、慎吾はすこしどもりながら挨拶をする。

「おはよ。…あの…さぁ」

中居の目が、あきらかに動揺しまくりでキョロキョロと急がしそうに動いていた。

“絶対忘れてたんだ”

下三人は、そろってそう思いおかしそうに目配せをしあう。

「いいよいいよ、中居君。気にしないで」代表して吾郎がそう言おうとして一歩前に出たその時。

「吾郎…。いつもお前ばっかりいじっちゃってゴメンな。いつも散々に言ってるけど

 SMAPが今までやってこれたのも中間管理職のお前がいたからなんだ。感謝…してるよ。

 俺、お前のちょっと変わってる所もけっこう好きだから」

…………はい?

下三人は鳩が豆鉄砲をくらったかのようにポカンと口を開けた。

「な……中居君?」

慎吾が、まさに恐る恐ると言った言葉がぴったりな感じで中居に問いかける。

すると中居は、いままで吾郎を見据えていた目をクルリと慎吾に向けた。

「……慎吾」

「はっ…はいっ!?」

「お前はSMAPの末っ子で、子供だ子供だと思っていたけど立派になったな。

 お前はいつも周りに気を使うことが出来るしファンが望んでることに対してはすげー敏感だし。

 そのファンの要望に答えようと体を張って頑張ってる所、いつも感心してたんだ。

 お前はいつまでも俺らのかわいい弟だよ。いつもありがとな」

「中居君…」

そういい終わると、中居はまるで言葉を途切れさせることを拒むかのように今度は剛の方へ体を向けた。

「剛。」

「ん?」

「お前はそんなに饒舌じゃないけど、俺の気分が落ちてたりした時お前と話すとすごい落ち着く。

 お前は人を癒すことの出来る人間だ。お前がいてくれていつも本当に助かってる。

 だからお前にはいつまでも変わらないでいて欲しいって、そう思ってる。

 …ちょっと押し付けがましいかもしれないけど、これからも今のお前のままでいてくれよな」

そういい終わると、中居が三人に最上級の笑顔を送る。

「中居君…あの…すっごく嬉しいんだけど、どうしたの?いきなり…」

慎吾のその言葉が言い終わるか終わらないかという時、後ろから聞きなれた声が聞こえた。

「おい!!お前ら何やってんだよ!剛とかはともかく中居まで…。もうとっくに収録開始時間過ぎてんだぞ!

 スタッフもお前らのこと探してたんだぞ!?」

「…っ木村くーん…」

「…何、どうしたのお前ら?」

下三人のただならぬ様子に、かなりご立腹のようだった木村が首をかしげて疑問を投げかけた。

「な…中居君が…」

「は?中居?」

木村が中居を見ると、中居はふわりと優しく微笑んだ。

「木村」

「…何?」

「お前とは…高校も一緒、年齢も一緒で…随分長い付き合いになるよな。

 SMAP結成当時とかは…まぁ色々あったけど、お前がいなかったら俺もリーダーとして

SMAPやってこれなかったと思う。俺とお前って…正反対じゃん?だから

 お前といると全然飽きないし。お前は本当にSMAPのいい見本であり続けてくれた。

 本当にお前には、感謝してもしきれないくらいだ。…ありがとな」

「…………へ??」

木村の目が、さっきの下三人同様点になった。

「な…なななな…中居!?どうした!?」

「ねっねっ!?中居君、変だよね!?頭とか打っちゃったのかな!?どうしよう木村君!!」

慎吾が、これ以上ないというくらいパニックになっている。

その時、吾郎の頭の中にある考えが浮かんだ。

「…もしかして中居君…ホワイトデーだから?」

その瞬間、いままで平静を装っていた中居の顔が一気に真っ赤に染まった。

吾郎の顔が、自然ににやけてくる。

「…図星?」

「…前言撤回。やっぱり吾郎なんて嫌いだ。大っ嫌いだ…」

中居が、今にも泣き出しそうに涙をいっぱいためた瞳で吾郎を睨む。

「え…ホワイトデー?…だからあんなこと言ってくれたの?

 中居君、ああいうの一番苦手じゃない。なんでそれを選んだわけ?」

慎吾が中居の顔をじっと見つめて、何個もの質問を一気にぶつけた。

そんな慎吾に対して、中居は理由を述べるのも恥ずかしいと言わんばかりに、ゆっくりと口を開いた。

「時間なくて…何にも用意できなくて…。でも、この間の嬉しかったから…俺もなんか返したいじゃん。

 でも俺は料理できないし。こんな事でもないと、俺…普段こういうこと言えないから…」

「中居…」

「「「中居君…」」」

4人が、そんな中居の言葉に声をそろえて感動したとき、中居が耐えられないとでも言うように

いきなり大声をあげた。

「あ―――っ!!!!もういい!!!うるさいっっ!!お前ら、今から10分前の事は全部忘れろ!記憶から消し去れ!!

 …っつーか、!今の全部嘘だから!!本気にすんじゃねーぞ!!!」

あまりに突然起こったことにキョトンとしている4人に対して、中居はくるりと背を向けてさらに大声で叫ぶ。

「てか、収録の時間過ぎてるんだろ!?早くしろよお前ら!!スタッフが困ってんだろ!!」

そんな事を言って、自分はさっさとセットの中に入っていってしまった。

中居は自分の耳が真っ赤なことに、気づかれないとでも思っているのだろうか。

「…収録が遅れたのはもともと中居君のせいじゃん」

ボソッと囁くように言われた慎吾の言葉で、4人がこらえ切れなくなり全員で大爆笑をする。

それと同時に、おかしそうに目配せをして走り出した。

「中居く―――――んっっっ!」

「うわっ!!なんだよお前らっ…お、重いんだよ慎吾!そしてくっつくなっ…暑いっっ…!」

口ではきつい事を言っているが、そのときの中居の顔は太陽のようにまぶしい笑顔だった。

そして、そのときの4人の気持ちはまったく一緒。

――中居君の言葉が、どんな高級なプレゼントより嬉しいよ。

  僕らからも言わせて。ありがとう、中居君――…。



              END









あとがき

ギャー、長すぎ…(@_@)なんじゃ、コレ…。
散々UPが遅れたうえに何だこの駄文は…いつも以上にこれヤバくないか?
本当にごめんなさい…。管理人は個人的にあんまり気に入ってないんですけど(えぇっ!?)
というか、中居君絶対こんな事言わなそう(あ)
まぁまぁ、妄想なので…勘弁してください。
中居君がメンバー、一人一人に感謝の気持ちを述べている所が書きたくて作ったお話なんですけど
出来はともかく、書いててすごく楽しかったです。
小悪魔な中居君も大好きなんですが、素直な中居君も見たいですからねー…。
ということで、長ったらしかった「SWEET DAY?」前編後編、完結です。
最後まで読んでくださった方、ありがとうございましたっ!

(07.06.23)