布団に入りながら、中居は今日の仕事を振り返る。

今日は「いいとも」。なんだかよく知らないがホワイトデー直前スペシャルと命名されていた。

まぁ、中居にとってはどうでもいい事だったけれども。

ふーん、ホワイトデー…か。……ん?………あ――――――っっ!!!!!









SWEET DAY?〜前編〜














3月14日。世に言うホワイトデーである。

関係ない…。そう中居は思っていた。一ヶ月前の、あの出来事を思い出すまでは。


その出来事は一ヶ月前の2月14日にさかのぼる。

その日はたまたま、ビストロの撮りの日であった。

もうすっかり着慣れたオーナーの衣装に袖を通して、中居はセットの中に入る。

「!?なん…だ?この甘ったるい匂い…」

まだ収録が始まっていないこのスタジオに、あるはずの無い香りが漂う。

甘いものがあまり得意ではない中居は、顔をしかめながらおそるおそるセットの中を見渡す。

「あ、中居。おはよー」

そこには、当然のような顔をして、シェフの衣装を着て何かを作っている木村の姿があった。

「木村…なにしてんの?」

「何って…中居、今日バレンタインだよ?」

「だからなんだよ」

「チョコ作ってるんだよ」

「は?」

中居が意味が分からない、とでも言いたげな声をあげる。

まぁ、当然のことであろう。

そもそもバレンタインというのは、女性が好きな男性に気持ちを伝えるためにチョコをあげる、というイベントである。

もともと中居は、そういうイベント事に興味は無かったのだが。

「つーか…お前、男だろ」

「知ってるよ。でもいいじゃん!世間には友チョコというものがあるんだよ」

「あ…そう」

中居が、さも興味の無さそうにその場を離れようとする。

「ちょっ…ちょっと待って中居!もうすぐ出来るから!」

「え…?」

中居は立ち止まって振り向き、大きな目をさらに見開いて木村を見つめた。

「俺に…くれんの?」

「当たり前だろ?他に誰がいるんだよ。まぁメンバーには全員やったけどさ」

木村がさらりとそういうのに対し、中居は少しずつ、頬が赤く染まっていく。

「俺…甘いのあんまり好きじゃねぇぞ」

自分がもらえる、というのが予想外だったのだろう。

中居は照れ隠しをするようにやけにぶっきらぼうに答える。

「知ってるよ。何年一緒にいると思ってるんだよ。だから中居には他の奴らとは甘さ違うの作ってるだろ」

そういうと、日本一カッコいいとされている男が中居に向けてニッコリと微笑む。

やっぱりこいつ、かっこいいなー、なんて中居が思った次の瞬間。

「中居くーーーんっっハッピーバレンタインーー!」

大きな図体の男が、音を立てて厨房に入ってきた。

「慎吾…お前もかよ」

「あれ、木村君まだ作ってんの?中居君にあげるからって力入れすぎじゃない〜?」

中居の言葉を無視して木村をおちょくった慎吾は、木村に頭をスパンっと叩かれる。

「慎吾…そんなことより早くしないと。チョコ、溶けちゃうよ?」

いつから来たのか、吾郎と剛が慎吾の後ろに立っていた。

吾郎が、なかば呆れ顔で慎吾を催促する。

「あっそうだった!俺は昨日の夜、自分の家で作ってきたんだ。はいっ中居君!」

「え…他のやつらには?」

「楽屋で渡したよ。さっき楽屋にいなかったの、中居君だけだったから。」

「あ…サンキュ」

かなり照れたように、中居が本当に小さな声で呟く。

すると、待っていたかのように後ろの二人も名乗りを上げた。

「中居君っ僕らもあるんだよ。はいっ」

吾郎と剛からも、綺麗にラッピングされた包みを受け取る。

どちらとも、性格の出ているようなラッピングの仕方であった。

「サンキュ」

「出来た!!」

中居が本日2度目のお礼を言い終えたと同時に、木村が見計らったかのように声をあげた。

「中居っいますぐ食べたほうがおいしいからさ、2階でこいつらのも含めて食べなよ」

木村の申し出に、中居は複雑な表情を浮かべる。

「え…でも…」

「大丈夫!ちゃんとスタッフには時間ずらしてくれる様に言ってあるから」

中居の言いたいことが分かっているかのように、木村が自信満々という感じで答える。

「あ…そうなんだ…」

それでも、中居のなにか迷ったような表情は消えない。

なぜなら中居にはこの時、もう一つだけ不安なことがあったのだ。

「全部食べきれるか」という事である。

4人の気持ちは素直に嬉しかった。

しかしもともと甘いものがそんなに得意ではない中居である。

それなのに4人分も…。でも残すのは悪いし…。

そんな2つの気持ちの間で葛藤する中居の表情をみて、4人はその心情を察したのだろう。

代表して吾郎が口を開いた。

「心配しないで、中居君。ちゃんと4人で相談して中居君が食べられるようにしてあるから」

「あ…」

そう言うと中居は、お礼を言う代わりに屈託の無い笑顔で微笑んだ。



「えっと、僕はSMAPのパテシエとして思いっきり腕を振るっちゃいました!」

そんなこんなで、セットの2階で急遽開かれた試食会。1番手は慎吾である。

その慎吾が取り出したのは、なぜか竹筒。

「…なにこれ。竹を食えって?」

「んなわけないじゃん!(笑)みててよーっ!」

慎吾が竹筒の下のほうをポンっと叩くと、中からみずみずしい羊羹が顔をだした。

「パテシエって…お前コレ和菓子じゃんか。パテシエって洋菓子作る職人じゃないのか?」

中居がからかう様に呟く。

「ちょっとー何贅沢言ってるのー!これも中居君のためなんだからね!」

「はいはい、悪かったって」

中居はそう言うと、その羊羹を一口、口に運んだ。

すると、中居の目がみるみる輝いていく。

「うめぇ…」

あんこの甘さは控えめで、のど越しはツルリとしていてしつこくない。

売っている、やけに甘いものとは大違いだ。

「そうでしょ!?ちゃんと中居君の好みを考えて作ってるからねー」

慎吾は誇らしげに、その太陽のような笑顔を中居に向ける。

それを見て中居が嬉しそうに笑い、2口目を食べようとした時。

「中居君、ストップ!!」

吾郎がそれを遮った。

「これ以上は駄目!全員の食べ終わってから、もう一回食べたいやつは食べればいいでしょ?

 とりあえず次は僕の食べてよ。僕も結構自信作だから」

「えぇーーっ吾郎ちゃんひどいよっ。中居君もそこまで少食じゃないでしょー」

「わかんないよ?慎吾じゃないんだから」

「吾郎ちゃん!!」

「慎吾うるさい。吾郎、何作ったの?」

不服そうな慎吾を差し置いて、中居は吾郎のほうへ振り返る。

「僕はねーラムレーズン入りトリュフ。甘さ控えめに作ってあるんだけど

 洋酒が効いてて。中居君、気に入ってくれると思うな」

自信満々、と言った感じで吾郎が微笑む。

「うわっっうめーーー!!!」

「やっぱり!?そうでしょ!?中居君好きだと思ったんだ」

「なんかTHE 吾郎って感じの味」

「なにそれ(笑)ま、気に入ってくれたんなら良かった。  じゃ、次剛だしなよ」

「うん。なんか吾郎さんのすごいおいしそうだったから…吾郎さんの後って緊張するなぁ。

 おいしくないかもなんだけど、僕はクッキー作ってみたんだ。といっても普通の  クッキーじゃないんだけどね。」

剛って本当に控えめなんだなぁ…なんて思いながら、中居は出されたクッキーを見つめた。

それは見たところ、普通のクッキーで。

剛に限ってそれは無いと思うけど…なんか変なもの入ってるんじゃ…

そんな一抹の不安を抱えつつ、中居はそれを口に含んだ。

「!?中になんか…?」

「中にいろんなソースを入れてあるんだ。イチゴとかチョコ、ユズ、ブルーベリー…。

 クッキーにはあんまり合わないような気がするけど結構合うでしょ?」

「すげー合う!マジうめーこれ!剛、自分で考えたの?すげーな!」

「ありがと」

中居が絶賛すると、剛は素直に嬉しそうな表情を顔いっぱいに浮かべた。

「じゃあ、次は木村君だね」

「おうよ!これ、中居驚くぜ!」

次の瞬間、木村が宣言した通り中居は目を丸くした。

なぜなら、木村が用意したのは一種類だけではなかったからだ。

まずチョコを溶かして作ったホットココア、桃のムースと2層になっている桃のゼリー。

ビターチョコのケーキに手作りプリンにチョコマフィン。

と、あきらかに普通のバレンタインとはかけ離れた量のデザートがこれでもか!というような感じで並べられていた。

「おま…これ…量的におかしいだろ…」

中居が少々あきれた様子で、しかし正論な突込みをいれる。

「大丈夫!甘さとかちゃんと計算してるし全部食べなくたっていいから」

“そういう問題じゃないと思う…”という顔をしている下三人の視線をものともせず、木村は

相変わらずのニコニコ顔で答える。

その時、中居がふと浮かんだ疑問を口にした。

「なぁ、お前らもこれ全部もらったわけ?」

その言葉を受けて、下3人は微妙な表情で苦笑いをする。

「あぁ…まぁ、もらったよ?中居君のとはちょっと甘さ違うやつだけど」

「ふーん、木村偉いな。こんな量を4人分も」

「別にたいしたことじゃねーよ」

このときの下3人の本心は、中居には口が裂けてもいえなかった。

“多分、中居君のためだけにこんなたくさんの種類を作ったんだと思う…”なんて。

大体、ほとんどが中居の趣味に偏っているんだから中居も良く考えれば分かることだと思うのだが…。

そういうことにはとことん鈍い中居は、そんな事夢にも思わずに木村の作ったデザートをすべておいしく堪能した。

ちなみに、中居に褒められる度に木村の顔が崩れっぱなしだったのは言うまでもないだろう。


すべてのデザートを食べ終わった後、中居はある重要なことに気がついた。

「あ…あの…」

「ん?どしたの中居君。お腹痛くなった?」

「木村くーん、やっぱりあの量はきつかったんだってー」

「えっ…ごめん中居…俺…」

「いや、違うって。落ち着けよ」

半泣きになっている木村を中居は慌てて遮る。

「あの…俺…今日なんにも用意してないんだけど…ゴメン…」

4人は俺だけではなく、メンバー全員にちゃんとデザートを用意していたのに。

自分だけ、メンバーどころか誰にも用意していない。というかそんなこと、正直言って考えもしていなかった。

あれだけ食べといてそりゃないだろう。

中居が、自分に自己嫌悪していると、思っても見ない言葉が返ってきた。

「なんだ、そんな事皆わかってたよ」

「へっ…?」

「中居君は絶対何にも用意してないって。皆わかってたよ?当たり前じゃない。

 中居君、そういうのに興味ある人じゃないしさ。

 でも僕らは中居君にあげたあったから。ただそれだけ。見返りなんて、誰も求めてないよ?」

その言葉に中居は唖然とした。

自分は貰えないとはっきり分かっているのに、あんな手の込んだものを用意してくれたのか?

っ…たく、こいつらは本当に…。

「お前らは…お人よし過ぎるんだよバーカ」

言葉はきついけれど、それが中居の精一杯の感謝の伝え方である事は、メンバーが一番よく知っている。

「ひっどいんだーっこうなったら中居君にはホワイトデーに大奮発してもらわないとね!」

「慎吾!てめー!」

慎吾に言われなくても、そうするつもりだった。

こんな素晴らしいプレゼントをくれたあいつらに、今度は俺がなにかしてやらないとな…。

心から、そう思っていた。

なのに。

その時中居は、一ヵ月後の悲劇なんて、想像もしていなかったのだ。





to be continued……











あとがき

長っ…なんですかこの長さは。
くだらないのにダラダラと書きやがってよー(誰に怒ってるんだ)
しかもこれでまだ続いてるって…(-_-;)
なんでshortのほうに前編後編があるんだよ…
文章をまとめる才能がなさすぎでがんす…(何だお前)
後編まで付き合ってくれる人なんているんでしょうか(笑) 付き合ってくれる人、手ーあげてー!!(死ね)
まぁ、こんなんですが…楽しんでいただけたら幸いです…。

(07,06,13)