風来雨
女心は秋の空。
…って言ったのは、誰だっけ?
「慎吾、何見てんの?」
「んー、空」
「あぁ、また降ってきたんだね。さっき一瞬晴れたと思ったのに」
「げーっマジで!?俺今日傘持ってきてないんですけど」
「駄目だよ中居君。今の時期には常に折り畳み傘くらいは常備しておかないと。僕のようにね」
「お前はそれプラスドライヤーだろ」
「何言ってんの中居君!ドライヤーは今の時期だけじゃなくて一年中常備だよ」
「あーあーすみませんでしたねーー」
「中居君もいっつも帽子ばっかりかぶってないでたまにはセットでもして出てきなよー」
「めんどくさい」
「何いってんの!いつもいつもきゅうっって寝かされて窮屈な髪のことを考えてあげなよ!少しは毛根さんを解放しなきゃ!」
「いや意味分かんねーし何よ毛根さんって。つかお前はどこの美容室のまわし者だ!」
「あれ慎吾、何処行くの?」
「ちょっと。あ、先に帰っててもいいからさ!」
中居と吾郎のミニコントにも後ろ髪引かれながら、慎吾は静かに楽屋を飛び出した。
別に何か特別な理由があったわけではない。
ただ何となく、この気まぐれな雨に打たれたくなったのだ。
「うわ、思ってたより降ってるー」
ただ目で見ていた時に比べて雨の音が直接感じられる分、雨が激しく降っているように感じられて
慎吾は思わず独り言をつぶやく。
それでも慎吾の意志は変わらず、何もためらうことなく外に飛び出した。
もちろん傘も差していないしカッパなんて着てるわけもないから
雨は直に慎吾の髪や肌を濡らしていき慎吾はぶるりと身震いをした。
――――――― あー、びっしょびしょだ。まぁ、いいか。今日はもう仕事もないし…。
それに、大人になるとさ、滅多にないじゃない。
服が重たくなるくらい雨に打たれて水浸しになることって。
子供のころとかはふざけてよくやって、風邪ひいたりとかしたけど。
まぁ、そんなことしてる大人がそこらじゅうにいっぱいいたりなんかしたら
それはそれで大変なことだとは思うけども。
そんなことを考えて思わずふふ、と笑っているとなんだか後ろに人の気配がしてそろりと振り返った。
そこには俺の中で2番目に、ここに来ることはないだろうと思っていた人物の姿があった。
しかも俺と同じく傘も何も差さないままで。
「お前、そんなびしょぬれになって何やってんの?しかも一人で笑って…傍から見たらめちゃめちゃ怪しいの分かってる?」
「………その言葉、そのまま中居君に返したいんだけど」
「俺はー、廊下歩いてたら窓からここにいるお前が見えたから何してんのかなって思って。
さっきの楽屋からはここ、ちょうど死角だったし…」
「それは分かったけど、何で俺と同じで傘とか何も差してないわけ?」
「だから言ったじゃん、俺今日傘持ってきてないって」
「じゃあ何で出てきたりしたのさーっ!!だめじゃんこんなびしょぬれになって…!
中居君俺と違って風邪ひきやすいんだしー。
これが原因で中居君が風邪ひいたりしたら俺木村君に無言の圧力掛けられるんだから!」
「何だよそれっ!木村は俺の何だ、保護者かっ」
「心配なんだってー分かってあげなよね」
そう言って慎吾が、自分が来ていたジャケットを中居の頭が濡れないようにかぶせてやると
中居は、こんなことするなら中に入ればいいじゃんと不服そうな顔で呟いた。
そうだね、中居君本気で風邪ひいちゃうから中に入ってもいいよ?と慎吾が言うと
中居はその言葉を無視して、さらに慎吾に近づき隣に並んだ。
どうやら聞こえないふりをしているようだ。
「中居君てば。本気で風邪…」
「何かあったの?お前」
慎吾の言葉を遮って中居が発した言葉を一瞬黙って聞いていた慎吾だが
次の瞬間はっとして慌てて手をぶんぶんと振った。
「ないないっ何もないよ!?あっもしかして俺がいきなりこんなことしたから
何か悩み事があるようにでも見えた?見えたんならごめん、余計な心配かけたこと謝るよ」
「いや、つーかいきなりこんな奇行に走ったら誰でも何か悩み事あんのかなって思うだろ!」
「あ、奇行だった?俺はそこまで変だとは思ってなかったんだけど…たまにあるじゃん、雨に打たれたいって時」
「その気持ちは百歩譲って分からなくもないが実際やるなよ…お前って時々想像もしないような奇行に走るよな…」
「ちょっとさっきから奇行奇行って、人を変人みたいに言わないでくれない」
「心配しなくても十分お前は変人だよ……はぁ、どうやったらこう育つのか」
「うーんとあのさ、俺のこういう性格を形成したのは92.8%の割合で中居君だって自覚してる?」
「それほとんど俺じゃねぇか!俺はお前みたいなでかいの育てた覚えはねぇ!」
「いやいやっ俺だって生まれた時からこの大きさだったわけじゃないから!小さい時だってあったでしょ!
中居君一番近くで見てたでしょ!」
「記憶に、ございません」
「どっかの官僚みたいなセリフやめてくれない!」
まっすぐに落ちる幻想的な雨とはあまりにも似合わない不毛な会話が永遠に続くと思われたが
それは不意に聞こえたパシャパシャという音で唐突に終わりを告げた。
その音にギクリと肩をつぼめたのは慎吾で、あぁきっと俺は一分後には無言の圧力を受けるのだと
覚悟を決めた。……のだが。
「慎吾!!中居君!!二人ともこんな土砂降りの中で傘もささずに何やってるの!!」
「あ、吾郎……」
「えぇっ吾郎ちゃん!?おかしいな、俺の中で一番ここに来ることはないだろうとされてた人が来たよ…今日はすごいな…」
「ってことはそのお前の口調だと俺はそのランキングの二番目に位置していたんだな慎吾?」
「あーっいやなんでもないですきっと幻聴ですよ中居さーん」
「ほら!いつまでもミニコントやってないで!はい、傘!今さらかもだけどまぁ、無いよりましでしょ?」
「なんか、ついさっきまでミニコントしてた人に言われたくないんですけどー…」
「吾郎、お前髪ひどいことになってるぞ、もしかしてこの中に小鳥を飼ってるのかい」
「そうなんだよ、この子たちが旅立つその日まで僕が代りに…ってそんなわけないでしょ!ほら早く中に入って!」
「え、何なに。今日はコント日和か何かなの?」
あまりのコント続きにもしかして今日何かあるのだろうかと不安に思っている俺をおいて
二人がさっさとスタジオに入ってしまったので俺も慌てて追いかけた。
スタジオ内に入ると俺と中居君から止まることなく滴がこぼれおちるのを見て
吾郎ちゃんがはぁと深い溜息を吐いた。
「まったくもーこんな雨の中傘も差さずに外に出るなんて少なくとも僕には信じられないよ。
はいタオル。風邪ひいちゃうからちゃんと拭いてね!
とりあえず楽屋に戻ろう?木村君と剛が暖かいもの用意して待ってるから」
「え!!つよぽんと、木村君!?」
「うん。慎吾が出て行ったあと中居君まで消えちゃったもんだから、じゃあ3人で帰ろうかってことになって
廊下に出たら外に馬鹿みたいに立ってる二人が見えたんだもん、もうびっくりしたよ。
で、木村君が真っ先に外に出ようとしたんだけど、僕ちょうど折り畳み傘3本持ってたからさ。
木村君を宥めて僕が代りに来たんだよ。」
「ちょっと待て。何でお前折り畳み傘3本も持ってんの?」
「えー予備だよ。折り畳み傘って折れちゃったりとかするでしょ?僕濡れるの嫌だし」
「折り畳み傘が折れるくらいの天気ならもうすでに髪の毛なんてぐちゃぐちゃになってるんじゃねーの?」
「………………それもそうだね。」
「吾郎って、変なところ抜けてるよな………」
中居君が吾郎ちゃんに憐れみの目を向ける。
そんな二人の様子が微笑ましくて大丈夫、僕折り畳み傘の予備持ってるからって人に貸すのってめっちゃジェントルマンじゃない
とか思ったけど口に出すのはやめておいた。
そんなことを考えていると俺の前を歩いていた中居君が不意に振り返って俺を見た。
「慎吾、すっきりしたか?」
「うん?」
「たまにはいいな。子供に戻ってみるのも」
そう言って中居君が満面の笑みでニコリと笑った。
俺はそれが嬉しくて、それに中居君が俺を追いかけて雨の中来てくれた嬉しさも加わって
タオルの掛かった中居君の頭をぐしゃぐしゃってすると調子に乗るなとどつかれてしまった。
でも本当に嬉しかったんだよ、中居君とあの時間を共有できたことが。
たまに後戻りしてみたっていいじゃない。
忙しい毎日の中で、一瞬時が止まったみたいに。
そんな時間ってきっとすごくすごく大事なものだと思うんだ。
「あ、そうだ慎吾。木村君地味に怒ってたから楽屋に戻ったら覚悟しておいた方がいいよ?」
「えぇ!!!」
どうやら今度は違う意味で俺の時間がとまりそうだ。
木村拓哉の、無言の圧力によって。
そんなことを考えていると急に外がぱぁっと明るくなり雨も止んできた。
ついさっきまでの土砂降りが信じられないくらいに。
どうやらあれは天気雨だったらしい。
本当に、秋の天気は女心のように気まぐれだ。
でもその気まぐれが、本当に心地よかったよ、ありがとう。
そう思って俺は、ゆっくりと出てきたおひさまに向って静かに頭を下げたのだった。
あとがき
どうしようこれなんという行き当たりばったり!!(汗)
最初の妄想の時点ではもっとシリアスなかっちょいい作品に仕上げるはずだったのに!
どうしてこんなギャグ調に……?
分析結果:最初の吾郎ちゃんと中居君の掛け合いを調子こいて書きすぎたことが原因(知るか)
こんなどうしようもない作品でごめんなさい
つよぽんが全然出てないよ……いじめかっていうくらい出てないよ…
つよぽん本当にごめんなさい大好きです大好きなんですがどうしてこうなるのか。
私にしては珍しいキャスト?になりました。中居君に慎吾に吾郎ちゃんて(笑)
こんな作品ですが、少しでも気に入っていただければとってもとっても嬉しいです。
(08.12.24)