拍手お礼小説:仄恋十題



いつもは自分の視界の中に居て当然の人がその日だけは映らなかった。

手には台本を持っているが、自分の瞳がくるくる動いているのが分かる。

自分の意思とは無関係に、気がつけば君を探しているんだ。



気が付けば君を探してる





「…中居君?」

「…っえっ?」

「何か考え事?心配事?…それとも何か探してるの?」

「えっ…」

吾郎の最後の一言で完全に不意打ちを付かれた中居は、そんなつもりなんてなかったのに

つい大袈裟に反応してしまう。

「な、んで?」

「だって中居君もう10分も台本のページ捲らないんだもん。読んでない証拠だよ」

「…お前、見すぎ」

「心配してるんだよ」

そんな言葉を微笑みと共に返されてしまっては、中居も反撃の仕様がない。

その代わり中居は台本に顔を埋めて、吾郎に無言の抵抗をしてみる。

そんな事したってページ捲らなかったら読んでないのがバレバレなんだって。

吾郎はそこをあえて言わない自分はやっぱり中居君に甘いのかな、と少し苦笑してみたり。

でも台本から少し見え隠れしている耳がすこし赤いことに気づき、もう少し中居を

いじめてみたい衝動にも駆られる事は事実。

「…木村君ならもうそろそろ帰ってくると思うよ?」

バサっと大きな音をたてて、中居は台本を顔から離した。

何か言い返そうと思ったらしいが、上手い言葉が出てこないらしい。

ただ黙って、顔を赤くして、口を開閉するだけである。

普段はあんなに饒舌なのに、こういうことになると驚くくらいシャイなんだから。

吾郎がクスクス笑うと、中居は今度は手足をジタバタさせる。

体を使って全力で否定したいらしいが、吾郎にしてみたら

そんな赤い顔をして否定も何もないだろうと思ってしまう。

「中居君、気づかれてないと思ってるの君だけだから」

吾郎がとどめの一言を口にしたと同時に、楽屋の扉が静かに開いた。

「あれ、お前らなに騒いでんの?てか中居、なんで涙目なの…」

木村に疑わしい目で見られたので、吾郎は慌てて木村から目を逸らした。

木村が口を開こうとしたが、その言葉はもう一人の言葉で遮られる。

「…木村、どこ行ってたの」

「へ?」

予想外の質問に、木村は目を丸くする。

たがその瞳は、疑問と、ひそかに期待が入り混じっているようで

吾郎は思わずため息をついた。

「や、喉渇いたからあっちのベンチで飲み物飲んでたんだけど」

「…それにしては遅かったな」

「あ、煙草。吸ってたから」

「…ふーん…」



そう言うと、中居はすっきりしたように再び台本に視線を落とした。

だかそれは木村にとって少し不服だったようで。

「えっ何、それだけ!?」

「は?他に何があるんだよ」

「……俺が居なくて寂しかったー、とか無いの?」

「ばっ…ばかじゃねーの!!」

それでも木村は諦めない。

中居にビタッとくっつくと、思いっきり中居の顔を覗き込んだ。

だが案の定2秒後には中居の顔面ビンタが木村の顔に直撃する。

こうなる事が分かっているのに、それでもやる木村を、ある意味尊敬する吾郎であった。



「なぁなぁ、俺が居ない間ずっと俺の事探してくれてた?」

「…………」

「なかいーー」

木村が中居の体を揺さぶると、中居は観念したように台本をパタンと音をたてて閉じてしまった。

そして体はそのままで、しかし大きな瞳だけはしっかりと木村の方を向けて口を開いた。

「別に寂しいとか、そういう事じゃなくて。いつもそこに居る奴が居ないから少し不安になったんだよ。

 だから、気が付いたら目が自然に木村のこと探してた。それだけ」



それだけってあなた、それで十分でしょうと口から出そうであったが

吾郎は慌てて口を押さえた。

これも立派な、中間管理職のお仕事。

その証拠に、顔面崩壊している木村の姿が吾郎の瞳に映る。

その光景に多少、苦笑いをしながら吾郎は静かに楽屋を出て行く。

これもやっぱり吾郎の大切なお仕事。

あの二人が平和ならば、その日のSMAPは間違いなく平和なのだから。





あとがき

ラブラブ2TOP第一弾(え)
第一弾からこんなんでは先が思いやられますな…(苦笑)