だまりの瞳






「中居ー」

「…………」

「中居ー」

「………何?」



自分の目の前に居る男が、さっきからずーっと楽しそうににやにや笑ってるのに気づいたときから嫌な予感はしてたんだ。

なのになんでその時に避難しておかなかったのか、とつい先ほどの自分を悔いてみてももう遅い。

今の自分への呼びかけで、その疑惑が確信へと変わり中居は深いため息をつきながら返事をした。



「木村、どした?」

「俺さー中居のために弁当作ってきたんだよね」

「……はぁ?」



いきなりご機嫌な様子で何を言い出すのかと思えば。

“弁当を作ってきた”って、付き合いたてのカップルの初めてのデートじゃあるまいし何故にそんな事。

そんな中居の脳内を見透かしたように、木村はさらりと口を開いた。



「そりゃさ?中居が今ダイエットしてるのは知ってるよ?それが『とにかく食べないダイエット』だっていう事も」

「じゃあその弁当箱は何だよ。言ってる事とやってる事が矛盾してますけど」

「でもさー中居。食べないダイエットって一番良くないんだよ。リバウンドする可能性だって大きいし。
 何より体に負担かかんだろ。俺たちは何よりも健康第一だろ」

「だーかーらーそんな事も分かってんの!!でもしょうがないじゃんっ俺にはこれが一番合ってんのっ!」



何だか他人が聞いたらかみ合ってないと感じるような会話を繰り広げる中居と木村。

そんな事も、中居の反応も無視して木村はパカッと会話の元となっている弁当箱を開けた。



「だからコレ作ってきたんじゃん!コレ、俺が考えたヘルシー弁当だから。もちろん野菜中心だけど、
 それでも活力にはなるようなもので作ったし。ね、食べて。マジで食っても平気だから!腹持ちもいいの選んだし!」



真剣な眼差しでこの弁当を作ってきたわけとその弁当の良さをアピールされれば、さすがの中居も少し心が揺らいだ。

その木村お手製の弁当が美味しそうだというのもあるのだか、だかやはりこれが木村の中居を思うが故の心遣いだと

いう事が大きな要因の一つだろう。

じぃっと木村に見つめられ、中居はついに小さな声で呟いた。



「…分かった、食べる…」

「ホント!?」



その瞬間、わさっという音をたてて現れた尻尾(少なくとも中居にはそれが見えた)のせいで、中居は文句を言う気も失せてしまう。

そのまま黙って木村が用意してくれた箸をパキッと割って、その自慢の品を口に運んだ。



「あれー中居君、木村君のお手製弁当ですか??うーらやーましーぃ」

「うっせーよ慎吾!!」



慎吾の冷やかしを受けながらも、それを食べる事をやめないのはやはり中居も木村には弱いのだろう。

黙ってもぐもぐと口を動かす中居を、こちらもまた何も言わずにじっと見つめる木村。

そんな視線に少し恥ずかしくなって思わず木村の方へ目を向けると、思い切り木村と目が合ってしまう。



「……どぉよ?」

「…ん……うめぇよ」

「良かった」



そう言って満面の笑みを浮かべる木村。そんな顔がまた見たくて、中居はとうとうその弁当を完食してしまうのだった。

まぁ、さして大きな弁当箱というわけでもなかったのだが。

この弁当箱の大きさも、木村なりの配慮だったんだろうと中居は密かにそう思った。



「ごちそーさま。うまかったよ木村」

「ありがと」



「褒めてくれてありがとう」とも「食べてくれてありがとう」とも取れるような、そんな感じで木村は呟き

徐に、立ち上がった中居をじぃっと見つめた。



「?どうした?」

「いや、本当に細いなーと思って…」



そう言うや否や、木村は中居の後ろに回り背後から両腕を回してきた。

つまり、傍から見れば木村が中居を後ろから抱きしめているような形になっているのだが……。

そんな体勢に中居が黙っているわけもなく、ボッという音がしたと思わせるくらい顔を赤くしながら体を震わせた。



「ちょっ……!!木村、何してんだよ!!!」

「こーんなことしてもさー…ほら、俺が腕回しても余ってるぜ」



要するに木村は、自分の体で中居の細さを確かめようとしたらしかった。

だがそんな事は中居にとってどうでもいいことであって、その恥ずかしい体勢にただただ抵抗を見せる。



「んなこといーからっっ離せってば!!」

「何中居、照れてんの?」


木村が悪戯に、そう耳元で呟けば中居は木村の期待通りの反応で耳まで赤く染める。


「♪」



木村の悪戯は留まる事を知らず、今度は何の前触れもなく急に中居の足を抱え込んだ。

俗に言う、お姫様抱っこというものである。

いきなり体の軸を失った中居は、有無を言わさず木村の首に腕を回す事になる。



「ちょっ…と!!!木村何してんだよ!!バカ降ろせ…」

「降ろせって、しっかり俺にしがみついてんじゃん」

「この状況じゃ仕方ないだろうが!!」

「つーかさー……中居やばいよ軽すぎ。女より軽いってコレ。ちゃんと食ってる?って、食ってないのか」

「…………いいから手離せ」



羞恥に耐えられないとでも言うように、中居が小さな声で呟く。

そんな中居の切実な訴えでさえも、木村は嬉しそうに頷くだけ。



「え、離していいの?」

「うわ、バカ!!離すなよ今!!」

「何だよ、離せって言ったり離すなって言ったり」

「単純に、俺を降ろしてくれればいいんだよ!」

「んー、もうちょっと。なんか中居可愛いから」

「なっ……に言ってんのお前……バカだろマジで…」


そんな会話をしていると、それを楽しそうに見つめる吾郎の姿が遠くに見て取れた。


「吾郎!お前見てないで助けろって!!俺このバカに拘束されてんですけど!」


そんな中居の必死の訴えも、吾郎は爽やかな笑顔で受け流してしまう。


「お互いがそんなに楽しそうにしてるのは拘束とはいえないよ中居君。木村君が羨ましい限りだね。
 ま、たっぷり遊んでなよ。収録が始まる頃には呼びに来て上げるから」



どうやら吾郎も木村の味方らしいと悟り、中居は思わず落胆する。



――――― お互いが楽しそうって……さぁ。

確かにコイツのほうは楽しそうだけど。

木村の顔を見ながら中居は少し苦笑する。



こんな顔見せられたら……さ。

もう少しこのままで居てもいいかななんて思っちゃうじゃんか。

そう思ってしまうのは、きっと長い間この状況にいるせいで…そうつまりは、慣れのせい。

あと、木村の体温の心地よさも少しは要因に入ってたり。

そんな事、悔しいから木村には一生言ってやんないけど。



そんな事を思いながら、中居が今まで硬直させていた体を少しだけ木村の方へと寄りかからせる。

その時木村が中居を見つめる瞳は、どこまでも優しかった。













あとがき

あ、まいの…か?(笑)
久しぶりに甘いお話を!と意気込んだ結果がこれです。
とことんツンデレ中居君。 何か、色々と間違ってる感じが。
あれ、つよぽんは………?(爆笑)

(08.03.14)