Sweetish Spice






「中居君、あーーん」

「………何してんのお前」



慌しく終えた生放送。

司会者である中居が出演者を全員見送り、やっと自分の楽屋にたどり着いたのは放送終了後からどの位時間が経った頃だったか。

少し大きい帽子を投げ捨てながらソファに座りため息を大きくついた時、見計らっていたかのように(いや、たぶん見計らっていたのだろうが)

いきなり大きな図体の男が入ってきて直後に上記の言葉。

中居の返答も当然と言えば当然だ。



「慎吾。お前、まだ帰ってなかったの」



自分よりも遥かに早くスタジオから撤収した出演者陣の中に居たはずなのにと、中居は慎吾を不審そうに見つめた。

慎吾は服装こそいつものように奇抜でラフなスタイルの私服に着替えてはいたものの

手荷物は無し、そのうえコートなどは着ておらず直行で帰宅する服装とは言いがたかった。



「えー中居君の事、待ってたんだけど」



意味深な雰囲気を醸し出しながら発せられた慎吾の言葉に、中居はますます表情を硬くした。

さっきまでの人物とはまるで別人のような中居のその表情に、慣れているとは言え慎吾はふぅっと深いため息をつく。



「何その迷惑そうな顔ー……ココに来た理由くらい聞いてくれたって」

「……何しに来た?」



今時やる人はほとんど居ないだろうに、床の上に指での、の、となぞりながら大袈裟に落ち込んで見せた慎吾を前にして

中居はそう聞いてやる以外、この慎吾とのコントを終わらせる術が思いつかなかった。

その瞬間ぱぁっと明るくなった慎吾の顔を見て一瞬笑ってしまった中居だが、次の慎吾の言葉を聞いてその事を後悔するのだった。



「中居君、アメちょうだい、アメ」

「はぁ?」

「だからーーー、さっきあげてたでしょ。俺にもちょうだい」



慎吾の言う「アメ」とは先ほどの生放送で大いに活躍した(?)中居のアメのことだろう。

それは分かる。わかるけれども。



「何でだよ。お前俺がさっき差し出したらそんな余裕無いとか言って受け取らなかったろ」

「だから今ちょうだいって言ってるんでしょーーっ。わっかんない人だねぇ中居君も!」

「何でたかがアメ如きでお前にそんな事言われなくちゃいけねぇんだよ」



中居がそう言うと慎吾は少々戸惑ったように中居を見つめた。

その瞳が、まだ何かを言いたそうだったので中居は帰り支度をしようと立ち上がろうとした足を止めて慎吾を見つめ返した。



「だってさーーー……」

「…なんだよ」

「俺メンバーなのに一番最後にアメ貰うとかなんか肖ってるみたいな…後輩の真似してるというか…」

「あぁ?聞こえねー。はっきりものは言えって父ちゃんに言われなかったか?」


そう言って中居は立ち上がり、今度こそ帰り支度を始めてしまったので慎吾は慌てた。


「あっ!!えっとーーー…だからさ、なんか恥ずかしいじゃん!みんなの前でメンバーからアメ貰うって言うのもさ…」

「…なんで?」



コートを着るその手を止めて、中居は涼しい顔で慎吾にそう問いかけた。

明らかに慎吾の反応を面白がっている中居の表情に、慎吾は何だか恥ずかしくなって言葉を発するのを止めてしまった。



「…もういいよ…中居君にこんなこと言いに来た俺がばかだったですーー」



慎吾はすくっと立ち上がり、楽屋の扉のほうへと向かった。

なにやら後ろで、ごそごそと中居が何かをやっているような音は聞こえたのだが

何だか悔しいので振返らない事にした。

でも次の瞬間、「慎吾」と本当に小さい声だったが確かに呼ばれた気がして慎吾はしぶしぶくるりと体を回転させた。


「ん!」


何かを口に押し当てられた感じがしたのはほんの一瞬で、一秒後には不意に口の中が甘くなっていった。


「………あまい」


もごもごと口を動かしながら発せられた言葉に、さっきまで遠くに居たのにいつの間にか慎吾の目の前に立っていた中居は

ふっと笑って見せた。


「それ、俺のお気に入りのいちごみるく味なんだからな。ちなみに最後の一個。感謝して食えよ」


そう言いながらコートのポケットのチャックを静かに閉める中居を見て、慎吾は

コートを着たのはこれを取るためだった事を悟った。



それを言ったら、中居君はいつもみたいに顔を真っ赤にして否定するだろうな。

それも面白いんだけど、今日はやめておこう。

そう思って慎吾は帰ろうとしていた中居の腕をぐっと掴んで引き寄せた。



「中居君、今日一緒に飲みにでも行こうかー」

「やだよ。何でお前なんかと」

「何でーー!!」



どうやら現実はこのアメのように甘くは行かないようである。

それでも、この甘酸っぱさが飽きさせず、むしろくせになるのかもしれない。

そう気づいたら、先ほどまでの自分の幼稚な考えは流れ星のごとく一瞬で消えてなくなった。

そうそれは、嫉妬という名の小さな炎。

一緒になんかしないでと、跳ね除けた。

でもきっとそれは、中居君はちゃんと分かってた。

それを確証付けるかのように、口の中に仄かないちごの風味が香る。

きっともう少ししたらまた、中居君は俺に“甘さ”を与えてくれるんだろう。

「何回も言ってるけど、俺すこし太ってる慎吾のほうが好きだけどな」



そう、きっとこんな風に。















あとがき

どうしても慎吾に中居君の奇跡のアメを食べて欲しかったのに
惜しくも食べてくれなかったので…食べさせてみました(笑)
個人的にはあの時慎吾には
「やべー、緊張してきた!!中居君俺にもちょうだいアメ」
と言って欲しかったんですけど…。
いちごみるく味のアメとか中居君食べ無そうですけども
そこはまぁ…。いちごみるく味が好きとか可愛くないですか?(笑)
こんな私の個人的な願望が詰まりまくったお話ですが
感想などいただけましたらとても嬉しいです(*^_^*)

(08.01.08)