世間では、「暖冬」と騒がれていた今年の冬。
それでもやっぱり寒い日だってあるわけで…。
寒い日の夜には
「寒っっ…!」
冬独特の冷たい風が吹いて、男は思わず声をあげる。
その男こそ、ただ立っているだけでもおそらく日本の女性の半分は振り返るであろう整った顔立ちの持ち主、木村拓哉である。
「つぅか、マジで遅いんだけど…アイツ。」
木村が今いるのは毎回「SMAP×SMAP」が収録されるスタジオの前。
何をしているのかというと、人を待っているのである。
その人とは、同じSMAPのメンバーで、リーダーでもある中居正広。
その日は珍しく収録が長引くこともなく、むしろ予定より早めに終わったくらいだった。
もちろん、メンバー個人の撮りもあるので5人それぞれ終わる時間は別々なのだが。
ましてや木村は、収録が終わってもスタッフと談笑をしてから帰るし
中居にいたっては他のメンバーが帰ってもプロデューサーと最後まで打ち合わせをしている。
そんな2人だから、帰りが一緒になることなんて滅多になかったのだが。
その日だけは違った。
その日、木村がスタジオの出口に向かうと、そこには中居の姿があった。
「あ…」
「木村。珍しいな、帰り一緒になるなんて」
「そうだな…」
なんとなく気まずいような、照れくさいような、そんな感じがして木村は中居と目を合わさずに呟いた。
「……一緒に…帰る?」
「………え!?」
TVに出ているときと違い、実はとてつもなく静かでシャイな中居が、木村を誘ったのだ。
木村は驚きのあまり、ものすごいスピードで中居の方へ目をやる。
すると中居は、案の定真っ赤な顔をして俯いてしまった。
「なんだよ…。別に嫌ならいいんだけど」
「やややややっっやじゃねーよっ!珍しいなって…ちょっとびっくりしただけ!」
木村があわてて弁解すると中居は、なんだよそれ、と言って穏やかに笑った。
TVでの完璧な笑顔ではない、ごく自然な本当の中居の笑顔で。
『なんだコレ…今日寒いけど、もしかして雪降るんじゃねーのかな…』
口に出して言ったら中居にぶっ飛ばされそうな事を考えながら、木村が中居に問いかける。
「中居、今日マネの車?だったら俺、送ってくけど」
「おぉ、サンキュ」
そんな会話をしていた時。
「中居さん!!」
スタジオに、中居を呼び止めるスタッフの声が響いた。
「どうしたんですか?」
「プロデューサーが、明日の撮りの事で変更があるのでちょっと話がしたいと言う事なんですが…」
「…あー…」
横目で木村を見る中居。
仕事人間と呼んでも過言ではないほど仕事に関して真面目な中居が、彼の申し出を断れるはずも無いことは木村にも分かっていた。
かといって、一年に一度、あるかないかのチャンスを捨ててそのまま帰る、という選択肢は木村の中には無かった。
「いいよ、中居。行ってきなよ。俺、ここで待ってるから」
中居は少し戸惑っていたが、スタッフにあまり時間がかからないことを確認したうえで
「悪い。すぐ戻る」
そう言うと、スタッフと一緒にもと来た道を戻っていった。
自分の経験上、少しくらいの変更ならば10分程度で終わるだろう、と木村は思った。
駐車場に行くのも面倒で、木村はその場で待つことにした。
15分が経った。それなのに中居が戻ってくる気配は一向に無い。
風はますます冷たくなり、木村は寒さに震えた。
しかし中居に「ここで待っている」と言った以上、場所を変えるわけにもいかなかった。
通行人も、こんな所で主人に置いてけぼりにされた犬のような顔をした男が、天下の木村拓哉だとは思わないのか
ただ通り過ぎていくばかりである。
いよいよ寒さで、手足の感覚が無くなってきた時、誰かが走ってくる足音がした。
「木村っっ!!」
木村が振り返ると、そこには肩で息をしている中居がいた。かなり走ってきたのだろう。
「マジごめん…プロデューサー、話長くてさ…逃げ切れなかった…」
顔の前で手を合わせる中居。謝る時に、中居がよくやる仕草だ。
「……うん」
中居が悪くないのは分かっている。ここで待っていると言ったのも自分。
しかし、あまりの寒さに、自分の気持ちとは裏腹に怒っているような口ぶりで木村が返事をする。
“やべー、俺マジ最悪…”
木村が自分に自己嫌悪したその時。
木村の耳を、中居の手が優しく包んだ。
中居の方が背が小さいので、少し背伸びをする形になっている。
「え…え!?」
「耳…赤くなってる。ごめん…寒かった…よな?」
中居が、少しだけ首を傾げる。
「あ…」
滅多に無い中居の行動に驚きつつ、顔の近さに顔が赤くなる木村。
その大きな瞳で、真っ直ぐに見つめられるのは久しぶりだった。
「や…大丈夫です…」
なぜか敬語になり、慌てふためく木村をそれまで黙ってみていた中居はふっと笑った。
中居お得意の、小悪魔のような笑顔で。
「機嫌、直った?」
「!!」
はめられた……と思っている木村に対し、中居は木村の耳から手を放し可笑しそうに笑っている。
“結局俺って、中居のペースに乗せられるんだよなぁ…”
木村がそんな事を思っていると、いきなり中居の顔から笑顔が消えてこう言った。
「なぁ…この後2人で飲みにでも…行く?」
「…えっっっ!?」
今度は中居の耳が赤くなる番だった。
しまいには、耳だけでなく顔までも真っ赤にさせて木村の返事を待っている。
あんな事言っていてもやはり中居だってこの寒空の中で長い間木村を待たせてしまったことを
悪いと感じていたんだろう。
そんな中居を見て、木村は自然に顔がほころぶ。
「行くか!!あ、でも俺車だから酒飲めないけど?」
「!!…じゃあ、俺も飲まない」
「え…いいよ中居。俺のこと気にしなくたって…」
「いいんだよ。たまには酒の力借りないで、真面目に木村と話し合ってやるよ」
中居が冗談っぽく言うと、きむらがおかしそうに笑った。
「なんだよそれ。えっらそーに」
寒い日の夜に降ったのは、雪ではなくて中居からの最高のプレゼント―――。
―― END ――
あとがき
けっこう前に書いたお話なので、季節感がまるで無いです(汗)
相変わらず自分の文才の無さに嘆く今日この頃なんですが…
無駄に長いって言うのは正にこの事なんじゃ…^^;
「木村君、寒いなら外に居ないでスタジオの中に入っちゃえばいいじゃんか」
という正当な突っ込みはあなたの心の中にそっとしまい込んでください(あ)
最後になりましたが、こんな駄文をここまで読んでくださった女神のように優しい方、
今、管理人が泣いて喜んでいます。本当にありがとうございました!!
感想までいただけたなら、管理人の涙は枯れ果てますよ(勝手にしろ)
(07,06,09)