僕の居場所。
「ふざけんなよってめぇ!!」
「ふざけてんのはそっちだろ!!」
「ちょっっ…やめなよっ二人とも!!」
木村と久々にケンカをした。
さすがに昔のように殴り合いとまではいかなかったが、かなり激しい言い合いになった。
きっかけは本当に些細なことで。
きっと、他人が聞いたら笑ってしまうようなこと。
だけど、その日は俺も木村も機嫌が悪くて。言い合いになるには十分な状況だった。
吾郎も剛も慎吾も、皆必死で仲裁に入ってくる。
特に慎吾は、本当に今にも泣きそうな顔で。
末っ子の性、とでも言うのだろうか。
まだ小さい頃から俺と木村の激しいケンカを見ているから、今でもそれを見ると
その時のことが蘇るんだろう。
でも、皆には悪いな、と思いながら俺も口は勝手にものを言う。
「お前はっいつもいつもかっこつけやがって!もうそういうお前見るのはうんざりなんだよ!」
俺がそういうと、木村はジロリと俺を睨むと立ち上がり、持っていた雑誌をデーブルに叩き付けた。
「お前は…どうなんだよ」
「…は?」
「お前さぁ、いつもいつも自分を偽ってさ。疲れないわけ?」
俺は何も言い返さなかった。いや、言い返せなかったんだ。
確かに俺は嘘つきで。
MCの仕事が多い俺は、笑いを取るために自分のことで嘘をつくことが多かった。
たとえそれが自分にとってマイナスになる嘘であっても、その場がそれで盛り上がるならばそれで良かった。
その嘘をつくことで俺が悪く思われたとしても、それで皆が楽しんでくれれば満足だった。
笑いを取るということは、本当に難しいことで。
それができるのであれば、多少の犠牲なんて惜しくも無かったんだ。
それでも、それを素直に認めるのは悔しくて。
「そんな事…木村には関係ない事じゃんか。俺が自分を偽っていたって、それで俺が疲れたって
お前には迷惑なんてかけてない!!」
やっとのことで思いついた言い訳を、慌てて木村に叩きつける。
我ながら、子供っぽいいい訳だな、なんて思いながら。
その時、木村がほんの一瞬だけ悲しそうな顔をした…ように見えた。
「お前は…そう思ってるわけ?」
「は?」
「お前が、自分を犠牲にして笑いとって。有りもしないことを周りから言われて。
そんで傷ついてるお前見て俺達がなんにも思わないって。お前はそう思ってるのかって聞いてんの!!」
「え…」
「…っもういいよ。そんなに笑いがとりたいなら漫才師にでもなっちまえよ」
そういうと木村は、乱暴に扉を閉めて楽屋を出て行ってしまった。
「…なんだっていうんだよ」
自分の、もやもやした心を晴らしたくて、俺は煙草に手を伸ばした。
次の瞬間、その手をいきなり剛につかまれた。
「中居君…」
「…なんだよ」
「木村くんねぇ、いつも中居君が嘘つくと苦しそうだったよ。
『なんでそんな事言うんだ』とか『自分を偽るな』とか、中居君がいないところでよく言ってた。」
いつもなら、その手を振り払ってでも煙草を吸おうとしていたはずなのに、剛の顔があまりに真剣で
俺は黙ってその話を聞いていた。
「この間なんてね、新人のスタッフがさ中居君の番組見て嘘を真に受けちゃって。
ほら、昔からいるスタッフだったら僕らのこと良く知ってるからそんな事無いんだけど、その人新人だったからさ。
そんでその人が中居君の悪口言ってたんだよ。それを木村君が聞いちゃって…。
ものすごい剣幕でそのスタッフにつかみ掛かっちゃって大変だったんだよ。」
「…木村が?」
あいつは思っていることがすぐに表情には出るが、さすがに最近になってそんな行為に及んだことはなかった。
自分にも、特にSMAPにもプラスになることでないのは分かっているから。なのに…。
「それ、本当か?」
「嘘なんてつかないよ。それで木村君、『中居のこと良く知りもしないくせに分かったような口利くな』とか言っちゃって。
僕と慎吾で押さえつけたから殴りはしなかったけど…ねぇ、慎吾?」
「うん……。ねぇ、中居君。木村君は中居君のことが心配なんだよ。中居君ただでさえ殺人的スケジュールなんだし」
「…分かってるよ」
分かってる。分かってるんだ、木村が心配してくれていることなんて。
でもそこで「ありがとう」なんて言えるほど、俺は出来た人間じゃないんだ。
その時、いままで黙って俺達のやり取りを聞いていた吾郎がつかつかと俺の前にやってきた。
「中居君」
そういうと吾郎は、俺の腕を掴むとグイグイと扉のほうへ押しやった。
「うわっ…ちょっ…なにすんだよ吾郎!」
「いいから。分かってるんだったらさっさと木村君のところ言ってきなよ。
仲直りするまで戻って来ちゃだめだからね」
そういうと吾郎は俺をむりやり楽屋の外に押し出すと、さっさと扉を閉めてしまった。
ご丁寧に鍵までかけて。
……仲直り…ねぇ。
表面上は渋ってみたものの、心の中でその行為にさほど抵抗を感じていない自分に気がつくまで時間は掛からなかった。
…木村のいる所ならだいたい想像出来る。たぶん…あそこだ。
そう考えると、俺の足は自然に宙を蹴っていた。
「吾郎ちゃん、やるときはやるんだねぇ!カッコよかったよ」
「困るんだよ、楽屋で喧嘩されるとさ。あの暗いジメジメした空気で髪が乱れそうで」
「あー、もうすぐ梅雨だしねぇ」
「つよぽん…今そういうこと言ってるんじゃ…」
「…仲直り、出来るといいけど」
ま、大丈夫だと思うけどね。あと二人の事だから。
扉を開けると、確かにあいつはそこに居た。
大きく大の字になって寝転んで。
「木村。…やっぱりここか」
昔、俺らがデビューしたての頃。怒られるたびに二人でここに…屋上に来たものだった。
「……なにしてんの?」
「空。…きれいだな、と思って」
木村が見ているのと同じように空を見上げると、そこには見渡す限り青い空が続いていた。
それは、昔見た空となにも変わっていなくて。
心地よい風が俺らの頬を通り抜ける。
「…木村」
「…何?」
「居場所に…なってくれる?」
「…?」
「俺がー、本当の俺で居られる場所。…これからはもう嘘はつかないなんて…約束はできない。
きっとこれからも俺は自分を偽ること、けっこうあると思うよ。それで苦しくなったら
本当の俺で居られる場所へ戻ってくる。そんな場所に…木村がなってくれる?」
普段の俺なら、こんな恥ずかしいこと言えない。でもなぜだろう。今、こんなにも素直に自分の気持ちが言えるのは。
木村が上半身だけ体を起こし、真っ直ぐに俺を見つめた。
あの、なにもかも見透かすような強い瞳で。
「…俺が断ると思ってる?」
「…いや」
俺が冗談っぽくそう言うと、木村は静かに笑った。
さっきまで喧嘩してたとは思えないほど柔らかい笑みだった。
「これから…じゃねぇよ。いままでも…俺だけじゃなくて、あいつらも…ずーっとお前の居場所だよ。
逆にお前だって、あいつらと…俺の居場所なんだ」
俺は自分の顔がかすかに紅くなるのを感じた。
よくこいつはいつもいつもこんな恥ずかしいことが言えるな、なんて考えながら。
でもこの笑顔と、この言葉と、この空の力を借りれば俺がいつもは言えない事だって言える様な気がした。
「木村…さっきはごめんな」
おれがそう言うと木村はたいして驚きもせずいいよ、そう言って静かに目を閉じた。
まるで、すべての風の動きを感じ取りたいかのように。
穏やかな、時が流れる。
その時の俺はまぎれもなく本当の“中居正広”だった。
嘘も偽りもない、本当の自分。
苦しくなったら、お前の所に戻ってくるよ。本当の自分に会いに―――。
――― END ―――
あとがき
はいっ私の願望と欲望と妄想がすべて詰まったお話でした(笑)
本当に中居君は辛くないのかなってよく思うんです。本当の自分を見失ったりしないか…と。
そんな中居君が本当の自分で居られる場所が、メンバーだったらいいなって。
いや、きっとメンバーでしょうね。(確定)あとジモッピー(爆笑)
私にしてはスラスラ文が出てきたお話です。
内容も、自分的には気に入ってます。
…自己満足って、それを言っちゃお終いですよ奥さん!!(笑)
(07.06.10)