Welcome to BISTORO






いつもと同じセットのスタジオには、なにやら違う空気が流れていた。

それは緊迫感でも、緊張感とも言いがたく、言うならばそれは「期待感」

そんな雰囲気漂うスタジオの中で、いつもの立ち位置にスッと立ったのは、もちろんオーナー姿の中居であって。

中居はそんなスタジオの「期待感」を吹き飛ばすかのように、明るい笑顔で口を開いた。



「はい、今日もビストロの時間がやってまいりましたー。今日のゲストはビッグですよー。なんと、あの!大物イケメン歌手の方なんです」

口に手を当てながら秘密めいた口調で語るその表情は、なんだかとても楽しそうである。

その時、何の前触れも無く鳴ったのは、来客を告げる鐘の音。



ピンポーン♪



「はいはいっ」



中居が軽やかな足取りで、客人がいるであろう所へ向かう。

静かな足音と共に現れたのは、もちろんあの人。

少し長い、ゆるやかな茶色の髪をふわりふわりと靡かせて。彼が歩くたびに、センスのいいアクセサリーがチャリンッと音をたてる。

彼はオーナーである中居の前で立ち止まると、ワザとらしく向かい合い少しだけ含み笑いをした。

そんな彼を見つめて、中居もつられたように口に手を当てて笑い出す。

笑いを必死で抑えて口にした言葉は、お決まりのあれ。



「ご予約のお名前は」

「…木村拓哉です」

「はい、どうぞお座りくださーい」

中居が軽く椅子を引き、木村に座るように促す。

木村は促されるままストンと腰を下ろすと、じっと中居を見つめる。

なかなか外されない視線に疑問を感じたのか、中居も木村を見つめ返して首をかしげた。



「?どうしました?」

「いや、マジでビストロに来たんだなぁーと思って」

「あっ御来店は初めてでした!?」

中居が驚いたように目を丸くすると、木村は苦笑しながら頷いた。

「あ、はい。実は。ずっと来たいと思ってたんですけどねー」

「そうでしたかー、これから徐々にこの雰囲気に慣れて頂きたいと思いますけれども。

 じゃあまずオーダーを決めていただきたいと思います。

 当店は一切メニューはございません。言っていただければなんでも

 作らせていただきます。何が宜しいでしょうか?」

「……中居」

「…はいっ!?」

予想していなかった木村の言葉に、中居は今度こそ本気で目を丸くした。

「慎吾の時も思ってたんだけどさぁ、敬語やめない?」

「え、いやー今夜はお客様としてお越しいただいていますしー慎吾君の時もそうだったんですけど、

オーナーとしてお話したほうがいいかな、と思ってるんですけども」

「ヤダ。なーんか気持ち悪い。ねっなんか気持ち悪いよね!」



木村は客席に向かって満面の笑みで問いかけると、例の如く気持ち悪ーいと声が漏れる。

客席を味方につけた木村に中居は一瞬ピクリと眉をひそめたが、それはすぐにもとの満面スマイル(営業スマイルとも言う)に戻っていた。



「困りましたねー木村さん」

中居のその一言に、木村は過剰とも言えるリアクションを見せた。

大袈裟に身震いをして、中居のほうを見つめた。

「『木村さん』!?ちょーヤダ!!やめて!」

「…じゃあ、なんて呼べば」

「いつものように拓哉で」

「いつも呼んでねーよ」

「あーいつもの中居に戻った。今日一日その口調でお願いね」

そういって「してやったり」な表情で微笑む木村を中居は悔しそうとも恥ずかしそうともとれるなんとも微妙な顔で見つめ返すのだった。





「だから嫌だったんだよ、木村がビストロに来るのなんて」

「何が?」

「そーやって引っかき回すでしょ!ここは俺のホームなの!オーナーであって中居正広じゃないの!そこんとこ分かってくださいよ木村さーん」

「そんなの知ーらねっ。俺ゲストだから好きなことしゃべるからね」

「木村……マジで本当に頼むから……俺涙目になるから…」

「ふふふ」

中居がもうすでに少し涙目になりつつ木村が座っている椅子の背もたれに項垂れると、

それを見て木村はこれ以上ないというくらい楽しそうな顔をした。

それを見てスタッフが何というドS、と少し中居に同情したのは言うまでもないだろう。

「つーかさ、中居。まずお前さ……」

「あのーっすみません!!!早くオーダーお願いできますか!!」

慎吾があまりの放置プレイぶりに痺れを切らして手を挙げながら木村の言葉を遮る。

吾郎も剛も同じように思っていたことは確かだが、上の二人の会話を頷きながら楽しく聞いていて

突っ込むのを忘れていたようだ。

「あっ、すみません。下の三人完全に忘れてました。ほんとごめんなさーい慎吾君」

「二人の世界に入らないでもらえますか。今までちょっと俺達存在空気だったからね!

 スタッフもははは〜みたいな感じで二人のこと見て今スタジオで誰も俺たち3人のこと見てなかったからね!」

「ほんとすみません。えっと、シェフがああ言っているので木村さん、オーダーは?」

「はい!昨日何がいいかなと一生懸命考えてきました!」

「はい!なんでしょう!!」

するといきなり木村が目の前にあったベルをむんずと掴むと思いきり叫んだ。

「おーだぁー!!シェフ達の得意料理ー!!!」

「うぃーむっしゅ!!」

「えっ!!何どさくさ紛れてお前がオーダーしてんだよ!お前客だろ!つーか下3人も素直に受け入れてるんじゃねぇよ!!

 しかも昨日一生懸命考えたわりには無難なオーダー!」

「一回やってみたかんったんだよね」

「前に何回かやってるだろ。あれ?あれ何時だっけ。ねぇー吾郎ちゃん??」

「あーいったー☆」

「あいつ爽やかにごまかしたよ」

「吾郎ナイススルー☆」



何だか今日のビストロは全員のテンションがかなり高めらしい。

まるで全てがコントのようだ。

この5人は一度こうなったらまるで子供のように手のつけられなくなることを百も承知なスタッフは

再び苦笑まじりにため息をつくのであった。







「さて!改めまして。こんばんはー」

「こんばんは!」

「えっと…僕とは…初めてですよね?」

「お前ふざけんなよ」

首を傾げて尋ねる中居に、木村が口の端をあげながら睨みつけると中居は小さな声で冗談だってと呟く。

「つかさー何これどうすればいいの?何話す?デビューのきっかけとか話す?話したい?」

「ここでうん、話したい!とかいうやついるわけないだろ」

「じゃー何話せばいいわけ…?俺もーやだっ。つうかなんか木村顔近くない?」

「うん?」

「慎吾と同レベルなことしてるんじゃねぇ!もーっ…ねぇ!!料理まだ出来ないの!?」

「いやいや、作り始めたばっかりですけどっ!」

慎吾が手をぶんぶん振ると中居はぷぅと頬を膨らませた。

「じゃあ…中居さん、最近どうよ」

「お前は巷の疲れたサラリーマンか。最近どうよって…」

「今の世界情勢についてとか、経済状況とか、なんでもいいよ」

「話題重いなっ!そうだなー、やっぱりあれは結構印象的だったな。主演男優賞」

「あれね!」

「あ、あのときは色々とありがとうございました」

「いえいえ、こちらこそ。おめでとうございました」

「あれさ、ぶっちゃけどうだった?」

「めちゃくちゃ恥ずかしいよ。恥ずかしいっていうか、どんな顔したらいいかわかんなくて」

「だよな。なんか二人とも『俺別に、同じメンバーとか意識してないから』みたいな顔してた割には

 にやけた顔が新聞の一面になったという」

「ぶははははは!」

「だってあれ、去年の受賞者が今年の受賞者に盾送るとかさ、もう意味が分からない!!」

「でも結構新鮮だったよね。俺と中居二人の仕事ってあんまりないじゃん?」

「まぁね」

「今度二人で映画でもやろうか?」

「ははははははは!ぜってーヤダ」

「うわ!即答!おもしろそうだけどなー」

「NG出したときとかさ、嫌じゃない?あ、ごめんなさーいもう一回お願いしますみたいな」

「いいじゃん。今度は天才詐欺師とそれを追い詰める刑事とかどうよ」

「俺のドラマを天才シリーズに収めようとしないでくれる。いや、面白そうだけどね!」

「でしょ?コントでもいいからちょっとやってみたいな。あーなんか良いにおいしてきたっ」

「あ、じゃあ下行ってみましょうか」

「えぇーっもっと二人で話そうよ」

「お前いっぺんここから下に落ちろ」









「さぁっ木村さん!吾郎ちゃんとはっ」

「初めてですねーあっどうもこんにちはー木村拓哉です」

「どうもーっていやいやいや」

「出たっ!吾郎の乗りツッコミ!!いつもはこんなことやんないんですけどねー今日はちょっと頑張っちゃってるみたいですよー?」

中居が観客のほうを向きながら内緒話をするかのように小さな声でそう言うと、吾郎は照れながらそんなことないですって、苦笑する。

「いやでも、最近吾郎ちゃん本当に面白いですよ。ねぇ、木村さん?」

「うん、いやマジで。吾郎頭角を現してきたな〜って思うよホントに」

「えー本当?嬉しいなぁ」

「昔の『ジェットコースターなんて乗りたくないんだよ!』な吾郎ちゃんからは想像できないよねっ」

向かいで調理をしていた慎吾がいたずらめいた瞳でそう言うと吾郎は笑いながらえ?と慎吾に問い直す。

どうやらはぐらかそうとしているようだ。

すると木村が、他のメンバーよりも慎吾の調理が遅れ気味なことに気づき、ちゃちゃ入れてないで作れよ、と苦笑しながら

言うと慎吾は兄に怒られた弟のように慌てて下を向き調理を再開した。

中居はそんな様子を見て怒られてやんの、と小さな声で慎吾をからかうことを忘れずに話を進めた。

「で、木村さん。吾郎ちゃんとは?」

「いや、今ね。吾郎からしつこいくらいゴルフに誘われてるんですよ」

「あらっ吾郎さんしつこいんですか!?」

「人をストーカーみたいなニュアンスで呼ばないでくれる?んーまぁ、そうですね。木村君と行きたいんですよゴルフ」

「行けばいいじゃないですかー木村さん」

「んーーーー吾郎と二人かぁ……」

「ひどっえっ何それ木村君嫌なの、僕と二人でゴルフに行くのがっ」

「…………」

「えぇっそこは否定するところでしょ!!今の否定するところでしょ!?」

「吾郎と行きたくないんだって。そこんとこ空気読もうよ吾郎ちゃんー」

「ちょっ………中居君まで!!ひどい!この人たちひどい!!いじめっこだ!!」

ドSコンビのあまりの仕打ちに、吾郎は思わず隣で調理していたメンバー内では唯一吾郎と同じMグループに属する剛に助けを求める。

中居と木村を指差しながら泣きつく吾郎に剛は優しく僕が一緒に行ってあげるよ吾郎さん、とか言ってるあたり

こいつは本当に優しいというかなんというか、と密かに苦笑するドSコンビなのであった。









「えっと、じゃあ木村さん。慎吾君とは?」

「はいっっずっとファンでしたー握手してください!!」

慎吾は中居に問われるや否や芝居めいた口調でそういうと自分の手をさっと木村のほうに差し出した。

木村が苦笑しながら慎吾の手を握ると慎吾はその手を思いきりブンブンと振り最後にぎゅうっと握った。

「ああぁー嬉しいですぅ、あの木村拓哉さんと握手できる日が来るなんてっもう今日から死ぬまで手洗いませんっ」

「お前それするとビストロ界から追放されるぞ」

慎吾のミニコントに皮肉たっぷりに中居が言うのを聞こえなかったかのように、慎吾は言葉を続けた。

「実はー私ー木村さんのファンなんですけどー中居さんのファンでもあってー」

「あーそうですか嬉しいです、ありがとうございます」

何で女子高生口調なんだよ、と小さい声で呟きながらも慎吾の芝居に便乗した中居は、慎吾の瞳にかなり危険な悪戯めいた光が

帯びているのを見て嫌な予感を早くも感じ取っていた。

「さーそれでは…」

オーナーの職権乱用でその言葉を無理やり遮ろうとした中居であったが、同じく慎吾の思惑に気づいたのか

木村が中居の口をふさいでその言葉を止めた。

「何かな?慎吾君?」

「はいっそれでー私は木村さんと中居さんの二人のツーショットを見るのが特に大好きでぇ。せっかくなんで

 今ここで二人ですごーく近づいて向かい合いながら『たっくん』『ヒロちゃん』って呼び合ってくれませんかぁ?」

そんな、慎吾が猛者のように見える発言が終わった瞬間、中居はそれだけで10人くらいは殺せるような視線を慎吾に投げかける。

しかし慎吾も慎吾で、その攻撃を受けない技術を今までの人生で学んできたようで、出来るだけ中居の目を直接見ないようにしているらしかった。

それは、こう言うことに関しては木村は自分の味方だという確信があるところからきているようだ。

まぁ、その慎吾の自信が間違っていないのも中居にとっては悔しい事実なのだが。

「もーしょうがないなぁっ!ねっ中居!!」

「何でノリノリなんだよお前はっっ!!!マジでふざけんなよっ」

「ふざけてないよーファンの望みだから仕方ないもんね」

「ファンつーかただの慎吾だろ!!」

「ほら中居!こっち向いて!」

絶対に嫌だと、しばらく頑なに木村の要望を拒否していた中居だが、周りの人たちの期待の眼差し(特に観客)に気がついたのか

しぶしぶ体を木村の方へと向けた。

「ヒロちゃん♪」

少々軽めの口調ではあったが、それでもさすが木村拓哉というべきなのかその言葉にはかなりの色気が含まれていて

そういう事に滅法弱い中居の顔面を真っ赤に染める事は容易であったようだ。

「おまっ………何で…そう言うこと平気で…」

「ほら中居早く!時間おしちゃうよ?」

「う…あ………たっ…くん…」

かなり小さい声だったが確かにそう呟いた中居を、木村がよく出来ました!と子供を扱うように

頭を撫でながら褒めると中居は涙目になりながらお前ら後で覚えてろよと

驚くほどの低い声で木村と慎吾を睨みつけるのだった。

こんな行動に出れば自分達がそのあとどういう運命をたどるか、当然分かっていたはずなのだが

それでもやはり木村と慎吾は少々やばいな、という顔つきで目を合わせながら苦笑している。

そんな二人をよそに、中居は一瞬のうちに表情を一変させ何事もなかったかのように番組を進行し始めるのだった。

「はいっじゃあこの後は上で料理のほうを……」

「いやいやいやっ待って待って!!」

「どうしました?草なぎさん」

「僕を!!忘れてるでしょ!?」

「はい?」

「いや、はい?じゃなくて!何で僕だけトークなしでスルーしようとしてるの!?」

「あーー、ごめんなさい。もう少し時間が押してるんですよねーあ、しゃべってもいいですよ?あとでバッサリいくので」

中居がニヤニヤ笑いながら手でハサミを作りながらそう言うと剛は苦笑しながら噴き出した。

「何で僕の部分をカットする前提で話進めてんのっ!?」

「あーーー………すみません木村さん。いいですかね?時間少し」

「あぁ…いいですよ」

「だそうです!良かったですね草なぎさん!」

「何でお情けでトークしてもらう、みたいな流れになってんの、ねぇ!?」

「はいはい、分かったからそんなに興奮するなって。で、剛。木村とは?」

「………………………そーーーですねぇ…………」

「お前話す内容決めとけよ!!!」









「さぁ、試食のお時間ですっ!まず最初は、吾郎ちゃん!」

「はいっ」

さきほどの大騒ぎはどこへやら。

5人ともさすがプロと言うべきか、きちんと切り替えをしビストロモードに入ってるようだ。

「えーすげぇ楽しみー!なんか今さらだけどドキドキしてきた俺。何、何作ったの?」

「僕はですね!パスタを作りました!」

え、マジで。木村にパスタ?と言う中居オーナーに、そうですと答えながら吾郎は木村の目の前に静かに皿を置いた。

「フレッシュトマトとモッツァレラのパスタです」

「うぉーー!やべぇ旨そう!」

「はい、今回はですねー何を作ろうか非常に迷ったんですけど。今中居君も言いましたが木村君にパスタ!ということで

 僕にとっても大きな挑戦を試みました」

「木村の作るパスタは半端じゃないからね」

中居がそう言うと木村がふふ、と笑いながらフォークを手に取る。

「じゃ、いただきまーす!」

「はい」

木村がフォークでパスタを巻き大きく口を開けてそれを食べる。

口に含み、しばらく口を動かしていた木村に待ち切れなかったのか吾郎がどう、どう?と尋ねる。

こういう所、吾郎は変に子供くさいんだよなと口には出さなかったものの中居は密かに考えていた。

吾郎の問いかけに、木村は静かにうなずくと手でグーサインを出した。

「すげーうまい。完璧。なんかね、一見味濃そうに見えるんだけどトマトがすごいあっさりしてるからそれで丁度よくなってる」

「あっホントー!?良かったー!いやなんかもうすごい緊張する、やっぱり。こうやって木村君に料理だすの。

 二人も覚悟しといたほうがいいよ」

剛と慎吾にそう言う吾郎に、木村はなんだよそれ、といって苦笑する。

「いやでも俺料理しないけど分かるよ。なんか木村が食べるってだけで緊張するよね」

「でしょ!?分かってくれる?中居君も」

「うん分かるわかる。なんか慎吾のときはどうでも良かったけど木村はそうもいかないって感じだよね」

「ちょっとおぉぉ!!そこのちっさいの!!何そ、何て事、何いってるの!!」

「何でそんなカミカミなんだよお前」

そんなくだらない会話をしている間に、木村はすっかりパスタを食べ終えたようでコトンとフォークを置いた。

「ごちそーさまでした!いやうまかったですマジで」

「すごいよ吾郎ちゃん、完食です」

「いや嬉しいですねー本当に」

「木村さん、もし良かったらおかわりなんてどうでしょう?」

「おいそこの馬鹿オーナー!!何言ってんのちょっと!!まだ二人いるからね!!」

「冗談ですって。それにしても剛は本当に喋んないんだね。剛大丈夫、眠い?」

「…ん、あぁ、はい。少し」

「眠いのかよ!!!」









「はい、続いては剛君でーす」

「はい!!」

「さてこちらは?」

「韓国風海鮮鍋と、こっちがコラーゲンたっぷり韓国風スープです」

剛が木村の目の前に大きな鍋とスープの入った皿をでん、と置く。

その二つからは湯気がほかほか出ていて、そこからは非常に食欲をそそる匂いが香る。

「これさ、すっげーうまそうだけどすっげー熱そうだよね!!」

「あぁ、はい。熱いですね」

さらりと言われた剛の言葉に木村が苦笑していると、それに気がついた剛が口を開いた。

「あ、木村君熱いの駄目だもんね。じゃあ僕がふーふーしてあげますんで」

「はい!?」

「ふーふーって。しかも何でちょっと上から目線」

中居が肩を震わせて笑いながらそう言うと、剛は自分でも少し笑いながら、じゃあご自分でふーふーしてくださいと言いなおした。

「はい。じゃあいただきます!」

木村は少し多めに、もちろん自分でふーふーした後これまた大きな口で海鮮鍋の中に入っていた伊勢海老をぱくりと食べた。

「うぉ!!すげー辛い!あっ辛!!あーでもうまいコレ!!」

「韓国風ですからね。本場の味に近くなるように少し辛めに仕上げました」

「うん、これかなり本場の味に近いと思う。ただ辛いだけじゃなくて味に深みがあるというか」

「剛君、こちらは?」

「コラーゲンたっぷり韓国風スープです。こちらも少し辛めなんですけど、スープの中にたっぷりのコラーゲンが入ってます」

「ほぅ!コラーゲン!いいですね木村さん」

「いいっすねぇ、コラーゲン」

「まぁ、こんなもの食べなくても木村君はもともと肌すごい奇麗だから必要ないと思うんですけどね」

「…………」

「お前さ、なんでさっきから木村のこと口説こうとしてるの?」

「なんか剛がいつもより饒舌でこええぇーぶははははは!!」

「女優さんとかが来た時もこんな感じだといいんですけどねぇ剛君は」

「えっと、じゃあ今度から試みます」

剛の相変わらずの天然ぶりに、上二人が顔を見合せて笑うと剛はえ?え?と言いながら訳が分からないといわんばかりに首を傾げるのだった。







剛ご自慢のコラーゲンたっぷり韓国風スープを口に運ぶ木村に、中居はお決まりのあれを繰り出した。

「木村さん。どうですかお味の方は?」

「半っ端じゃないです」

「でました!半っ端じゃないです!!!」

中居が目を大きく見開きながら、カメラ目線でそう叫ぶとカメラは先ほどまで慎吾が座っていた席を映す。

案の定、そこには慎吾の姿はないわけで。

「あれ?慎吾は?」

中居がそう問うのを待っていたかのように、次の瞬間スタジオに聞きなれた音楽が鳴り響く。

ダ、ダンッダ、ダン♪

「これは……」

「HERO?」

そう。流れる音楽は木村主演でお馴染みのあのドラマの有名すぎるフレーズ。

4人がそう認識したその瞬間、背後からこれまたお馴染みの茶色い衣装を着た慎吾が現れる。

「おいちょっと、待てよ!!!!!」

慎吾が物まね番組などでよく聞くセリフを叫ぶ。

それを見た4人がしらっとした目で慎吾を見つめると慎吾は慌てる。

「え、ちょ、待って何この空気〜、ほらーだから言ったんだよやりたくないって!」

慎吾は誰に文句を言っているのか、だから言ったでしょ、と呟き中居に助けを求めた。

「もう頼みますよオーナーさぁん。ちょっと何か変な空気になっちゃったんですけどぉ」

「自業自得じゃね?」

「オーナー!!!」

悲痛な叫びを続ける慎吾には見えないように中居は吾郎と剛に助けるな、と悪魔の目配せを送り

それから木村にも意味ありげな目配せをした。

どうやら先ほどの仕返しのようだ。

「慎吾、お前後で覚えてろよ」

木村が不敵な笑みを浮かべながらそう言うと、慎吾は苦笑いをしながら木村を見て、

そのあと他の4人を見たが誰も助けてくれないことが分かると「逃げるが勝ち!!!」と叫びながら奥の方へと消えていった。

「くくく………」

「ホント馬鹿だねーあいつは…くく…」

「あの人たちって絶対150%の確率で小学校の時ガキ大将だったよね」

肩を震わせながら笑う上二人を見ながら吾郎が剛に語りかけると、剛は大きく首を縦に動かした。







「はい、最後は慎吾君です!!」

中居が先ほどまでとは打って変わって爽やかな笑顔でそう言うと、慎吾が後ろからバタバタと飛び出てくる。

カツラや衣装はまだ脱いでいない。

「それそのままでやるの?」

「はい!」

「お前勇気あるな」

中居がそう言うと慎吾は嬉しそうにありがとうございます!と叫ぶ。

そんな慎吾を見て中居は褒めてねーよ、と苦笑するのであった。

「えっと僕はですね!!デザートを作りました!順番的にもちょうどいいでしょ」

「いいですねー最後のフィニッシュって感じで」

「名づけて、慎吾特製デザートプレートです!!」

慎吾が運んできた大皿の中にはたくさんの種類のデザートが乗っていて、皿の上には綺麗な飴細工でドーム状のふたがされている。

「その蓋は飴なので食べてもいいですし、外して中のものを食べてもらっても構いません。

 中には抹茶とほうじ茶のアイス、あと旬なので横には苺のムースケーキがあります、ケーキにかかってるのはベリーソースで

 甘酸っぱく仕上げてるので甘さに飽きることがないと思います。あとは最後の口をさっぱりさせるために

 杏仁豆腐もご用意いたしました!まぁ、割と何でもありですね」

そう言って慎吾がニコリと笑う。

「この飴、食べてもいいんだよね?」

「どうぞ!」

木村がドーム状になった飴をフォークで崩し、口に運んでいると横に座っていた中居が何かに気がついた。

「あれ、木村。ここになんか書いてる」

「ん?」

木村が中居の指さす方を見ると、プレート上にチョコで何かメッセージが書いてあるようだ。

相変わらず芸が細かいやつだな、と笑みを浮かべながら木村はその文章を読み上げる。

「『木村拓哉!!君は僕らのヒーローDA☆』………DA☆って」

木村が笑いながら慎吾を見ると、お茶目でしょ?と慎吾にウインクをされて思わず吹き出してしまう。

「いや、ホントにー。木村君は僕らのヒーローだから。ねっ!!つよぽん!」

「………あ、え?」

「剛、今の話聞いてた?」

「あ、ごめん聞いてなかった」

「今本番中だよ!!?」

「ごめんごめん、ちょっと眠くって」

「……いいよ寝て。今から剛に話ふらないようにするから。おやすみー」

「中居君ごめんて!!ごめんごめん!!仲間外れにしないで!!」

そう言う剛を軽くスル―しつつ、中居は木村に問いかける。

「どうですか木村君。慎吾君の愛情たっぷりデザートは」

「全部美味しいです!アイスもね、すごい甘さとか丁度いいしケーキもこのソースとよく合ってる。

 あと杏仁豆腐ってさ、その店とかによって全然味違うじゃん?」

「はいはい、そうですねぇ」

「でもこの杏仁豆腐は俺の好みドストライクです!!うまい!!」

「ありがとうございます!!」

「慎吾君の想いは伝わったでしょうか?」

「十分すぎるくらい伝わりました!慎吾ありがとう!!」

木村が慎吾に握手を求めると、慎吾は嬉しそうに木村の手を握る。

「やった、木村君に褒められちゃった。超嬉しい」

「木村さん、これでさっきの慎吾君の無礼はチャラですかね?」

「いえ、それはまた別の話です」

「え!!!!」

「慎吾君災難ですねー。はいそれではこの後いよいよ判定でーす!」

「ちょっと!!何ひどいまとめ方してんの!!」









「さぁ、3人全員の料理を全て美味しく堪能した木村さん、もう判定のほうはお決まりでしょうか?」

「はい!!」

「どうなるんでしょうねー食べてる時の反応を見てても全部同じくらいでしたから…全く予想ができません!

 では行きましょう、判定は!?」

「今回は…引き分けです!!!」

「「「「は?」」」」

4人は口をぽかんとあける。木村に限って引き分けなど、誰も予想をしていなかったようだ。

「あのー木村さん?それはマジですか?」

「マジです。いや、中居たちの言いたいことは分かる!!俺も自分で今までシェフやって来てて引き分けはないだろうとか

 思ってたんだけど、今回はマジで3つとも甲乙つけがたいんですよ!!本当に全部美味しかった!

 皆綺麗にジャンルの違うもの作ってくれたし出てくる順番も良かったしね…」

「あぁ、確かに慎吾君の時は料理の順番が判定に多少影響していたみたいですしね…」

「そう。しかもさ、料理がさ、一人一つって感じだったじゃない。ま、剛は2品だったけど二つで一つって感じだったし」

「はいはい」

「例えば一人一人が定食みたいにご飯からデザートまで出してくれたんなら、デザートは一番これが美味しかったから

 みたいな感じで判定出来たけど、今回はそれが出来なかったから。なので今回は引き分けということで!!

 よろしいでしょうか皆さん?」

「さぁ、シェフの3人に聞いてみたいと思いますけども。どうでしょう?吾郎ちゃん」

「いいんじゃないですか、たまにはこういうのも。新鮮で。それにさっき他のメンバーの料理試食しましたけど

 美味しかったですもん。異議なしです。それにお客様が決めたことですから。ねっ剛!」

「うん、いいと思うよ。それに3人全員が選ばれたのは喜ばしいことですよ」

「慎吾君は?」

「いやー僕は色々な種類のデザート出したからいけるかな、と思ってたんですけどね〜」

「なんて言ってますが、どうでしょう木村さん?」

「慎吾は素行が悪かったのでそこから減点しています」

「嘘っ!?」

「嘘だよ、そんなんフェアじゃないじゃん。何マジになってんの」

そう言って木村が慎吾の背中をぽんぽんと優しく叩くと慎吾は良かった、と呟きながら肩を撫でおろした。

「いやー今夜のビストロは予想外の結果となりましたね」

「ホントにー。あ、でも残念だな。俺木村君からの勝利のキス、楽しみにしてたのに」

慎吾がふざけてそう言うと、急に木村の目がキラリと光った。

「そう!!いいところに気がつきました慎吾」

「へ?」

「今回、僕も料理のご褒美はキスにしようと思って何も持ってきてなかったんですけど、引き分けという

 思わぬ結果になってしまったわけなので」

「はぁ………」

「今回のご褒美のキスはオーナーである中居に捧げようと思います」

「!!!はぁ!!!??」

その瞬間、きゃあっと黄色い悲鳴が観客席から湧き上がる。

それに気を良くしたのか、木村は中居の方を向いてにやりと笑う。

「おまえっ馬鹿じゃねーの!!!大体お前ご褒美ちゃんと持ってきてただろうが!!!後ろにあるぞ!!俺見たもん!!」

「あーそれ俺のじゃないわ」

「嘘をつけ嘘を!!!!!!」

「まぁまぁ、中居見えないかいあの観客席からの眩しい眼差しが」

「見えねぇ!!!!俺目悪いもん!!!」

「それ関係ないよ中居君……」

吾郎が苦笑した次の瞬間、慎吾が中居を後ろから思い切り羽交い絞めにして動きを封じた。

その時の慎吾と言ったら、さきほどの悪さをした中居正広の顔そのもので吾郎と剛は顔を見合せため息をつく。

「慎吾!!お前バッカ……放せって!!」

「木村君早く!」

「いえっさー。では中居、美味しい料理ごちそうさまでした」

「俺は作ってねぇ!!」

木村はそんな中居の言葉を華麗にスルーし、中居の頬にチュッと可愛らしい音をたててキスをした。

きゃああーーーっという先ほどよりも大きな歓声を前にして慎吾と木村は満足げに笑い、中居は顔を真っ赤にして項垂れた。

「何で今日、俺の罰ゲームみたいになってんの……」

「中居君涙目だよ?」

「誰のせいだと思ってんだ!!!」

よろよろと立ちあがりながら中居は木村をキッと睨むが木村はそれをにこりと笑って返してしまう。

それが悔しいのか、ますます中居は涙目になっていく。

「ほら中居君!!番組しめてしめて!!」

「……っっ本当にお前ら後でしめる…」

「違っ…しめるってそっちの意味じゃなくて!!!俺が言ったのは番組を…っ!!」

中居が言った言葉に再び慌てる慎吾だったが、中居はぱっと表情を変えカメラを見る。

「さぁ!!僕はこのあとちょっと予定が出来たので、早めに番組をしめたいと思います☆」

「中居君予定って何!?ねぇ予定って何!?」

「ということで本日のお客様、木村拓哉さんでしたーっありがとうございました!!」

「美味しかったです!!ありがとうございましたーっ!」



スタッフと、そして観客の盛大な拍手とともにビストロ特別編は終了した。

ちなみにそのあと木村と慎吾がどうなったかというと………それは語る必要はないだろう。











あとがき

なんというテンション☆
慎吾は常に2TOP群れの仕掛け人であると私は思っています(笑)
そのあとにどんな仕打ちが待っていようとも…なんていい弟。
というわけで今回の話、慎吾がメタメタにされておりますが…
すみませんすみません。ごめんね慎吾。
そして料理…手抜いててすみません(汗)
今回の話の目的はスマを群れさせようというコンセプトであって
料理はあまり重視していないので別にいいか、と
思ってしまってすみません言い訳してすみません。
吾郎ちゃんとつよぽんの料理は過去のビストロのメニューから
自分のイメージに合ったものをパクって抜粋しました。
吾郎ちゃんにはパスタ、つよぽんには韓国料理と
作ってほしいものは決まっていたのですがメニューを考えるなんて
出来ないので。あ、慎吾の料理はちょっと適当に…(ちょ)
まぁ、いいよね!!(開き直るって大事だよね!)
そして最後はかなーり趣味に走ってしまいましたが…。
でも最後のは一番書きたかったシーンでもあります^_^;
皆様に少しでも気に入っていただければとても嬉しいです…。
かなり長いお話になってしまいましたが読んでくださり
ありがとうございました。お疲れ様です!!(笑)